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デザイナーのための知財10問10答|第1回 届けるまでがデザインの時代

第1回 届けるまでがデザインの時代

はじめまして。弁護士の水野祐と申します。

シティライツ法律事務所という法律事務所で、クリエイティブ、IT、まちづくり分野に特化して、仕事をしています。

 

これから全10回に分けて、デザイナー向けに知的財産権やそれにまつわる契約に関する記事を連載していきます。とはいえ、知的財産権に関する本や記事などの情報はすでにたくさんあります。また、10回という回数は多いようでいて、知的財産権全体をお伝えするには多くありません。

ですので、本連載では、知的財産権全体の網羅性よりも、今の時代にフォーカスした、デザイナーが間違えやすい、陥りがちなトピックに焦点をしぼり、かつ、既存の本やネットの記事にあまり書いてないような、あるいは既存のものとは少し違う角度から、書いてみたいと考えています。

これから知的財産権のことを学びたいデザイナーにとっても、すでにある程度知っているけど仕事で活かせる知識までにはなっていないデザイナーにとっても、有益なものにしていきたいと思っています。また、「デザイン経営」の重要性が叫ばれるなかで、企業側もデザイナーの権利や契約について知識を深めておくことは大切なことなので、そういったことに興味がある企業の方にも有益な記事にできたらと考えています。短い間ですが、お付き合いいただけたら幸いです。

 

知的財産権に関する情報はすでに巷に溢れていることをお伝えしましたが、その一例をご紹介しましょう。特許庁が、昨年末(2017年11月)に公開した知財教材「デザイナーが身につけておくべき知財の基本」です(私も委員として教材の執筆を担当させていただきました)。

この教材は、主にデザイナーやデザインを学ぶ学生に知財を教える先生向けに作られたものですが、デザイナーが円滑にビジネスを行い、社会で活躍するための基礎知識を修得するためのツールとしても有用なものです。教材は、シラバスと全15パートの講義用資料で構成されており、学習する時間や関心に応じ、編集して利用することが可能です。

 

https://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/chizai_kyozai-designer-kihon.htm

 

また、今年の3月に近畿経済産業局知的財産室が公開した「デザイナー・中小企業のためのデザイン契約のポイント」も、知的財産権の体系的な説明よりも、デザイナーや企業にとって身近な契約の注意点を学べる、大変有益な資料となっています。

http://www.kansai.meti.go.jp/2tokkyo/02shiensaku/guide/2017design_houkoku.pdf

 

そもそも、なぜデザイナーが知財を学ぶ必要があるのでしょうか。なんとなく大事なことはわかるけど、そのあたりがうまく腹落ちしていない方も多いのではないでしょうか。

私も確たる回答を用意できているわけではありませんが、インターネットその他のデジタル技術の発達・普及がこの流れを後押ししていることは間違いありません。TwitterのツイートやYouTubeやニコニコ動画などにおいて素人が制作する動画が著作物になりうることなどから明らかなとおり、情報の送り手(クリエイター)と受け手(ユーザー・ファン)の境界は揺らいできています。また、かつてクリエイターは出版社とか、レコード会社、映画制作・配給会社、そして広告代理店など中間に大きな企業に入ってもらって自らの作品を世界中のファンに届けてきました。しかし、今ではインターネットによって直接、または媒介者を極端に少なくして、安価に、瞬時に、世界中のファンに作品を届けることが可能になりました。

このようなインターネットの良いところばかりがクローズアップされがちですが、ここで見落とされがちな視点は、作品の適法性やファン、ユーザーの利用条件など、法律や契約といった法に関する面倒なことを以前は間に入ってくれていた企業が担っていたということです。しかし、インターネットを活用して創作する場合、これらの面倒なことを担ってくれる企業はいません。クリエイター自身がこれらの法にまつわることを自分で考えなければいけません。インターネットの便利さを利用できる反面、その利用には責任も伴うわけです。これが昨今においてデザイナーが知財を学ぶ必要性にある背景なのではないかと考えています。

このような意味で、最近、私は「作品を届けるまでがデザインである」とお話ししています。デザイナーに限らずクリエイターは、届けるところまでをしっかりデザインしなければいけないし、そこのデザインがおもしろい時代にもなっている。というか、おもしろいアイデアを生み出せるクリエイターがこの「届ける部分のデザイン」に関わらない手はない、とも思います。

 

デザイナーがなぜ知財を学ぶのか。少し頭の中でイメージが広がってきたでしょうか。デザイナーを含むクリエイターは、世の中にある様々な事象をおもしろがれる能力の高い人たちだと感じています。そんな人たちが知的財産権や契約といったものもおもしろがれないわけはない。デザイナーも知財や法という視点を武器の一つとしてポケットに入れるとおもしろい時代なのではないか。私はまず最初に皆さんにそう伝えたいのです。

第1回 届けるまでがデザインの時代第2回「似ているものはすでにどこかにある」から始めるデザイン(8/6掲載予定)

水野 祐 (みずの たすく)

弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。グッドデザイン賞審査員。IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。

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