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デザイナーのための知財10問10答|第4回 デザイン料の相場はあるか

第4回 デザイン料の相場はあるか

「デザイン料の相場を教えてください」という質問をよくいただきます。これに対する回答は「ケースバイケースです」としかお答えできません。なぜなら、デザイン料はもらい方にも様々な種類がありますし、その企業や製品、サービス、そしてデザイナーの仕事量やネームバリューなどによっても変わってくるからです。JAGDAが公開しているデザイン料金表は、「印刷媒体広告」「エディトリアル」「SP広告」「CI/VI」「パッケージ」というそれぞれの分野において料金表を記載していますが、計算式がやや複雑で使いこなすのが難しかったり、最新のもの(1994年度改訂)からすでに20年以上経過し市況も変化していることもあり、個別のケースにフィットしない場合も多く、参考程度にしかならないのが実情ではないでしょうか。

 

デザインの対価の支払方法には、大きく以下のような種類があります。

  1. 一括
  2. ロイヤリティ
  3. イニシャル+ロイヤリティ
  4. レベニューシェア
  5. 毎月のコンサルティング料

 

1の一括支払いの場合、デザイナーにはまとまったお金が入ってきますが、パッケージなどのデザインの寄与により思わぬヒット商品になったとしてもデザイナーに見返りはありません。発注者(クライアント)側としては、一括のみの方が予算の見通しが立てやすく、事業計画が描きやすいので、一括のみの支払方法で契約したがる傾向があります。一方で、デザイナーとしては、ヒットしたらその分、見返りがある、2のロイヤリティ形式や3のイニシャル+ロイヤリティを組み合わせた支払い方法がフェアに感じられる契約でしょう。また、1の一括支払いの中でも、著作権をクライアント側に譲渡する、いわゆる「買い切り」の場合と、そうではない著作権をデザイナー側に留保する場合とでは料金が異なるべきでしょう。筆者は、デザイナーに対し、契約時にこれらをオプションとして提示できるようにすることをアドバイスするようにしています。

 

2のロイヤリティ方式の支払いですが、この方式を選択する場合の注意点は、ロイヤリティのベースを何に掛けるか、です。売上げ、工場出荷額、利益(粗利)などがありえます。利益は出るかどうかわからないので、デザイナーとしては売上げや工場出荷額をベースにした方が安全ですが、この場合、当然ながらパーセンテージは低くなる傾向があります(ケースバイケースですが5%未満が多いと思います)。一方で、利益ベースとなるとこれもケースバイケースですが1〜20%程度までだいぶ広がりがあります。あと、売上げや工場出荷額を基準にするロイヤリティの算定は比較的明確ですが、利益ベースの場合には予想しない経費が計上されたり、計算方式が不透明になりがちなので、その点を契約時に明確にしておく必要があります。経費が不当に膨らむことがないように、実務的には、業務委託契約書の中で、当該商品やサービスに関する会計書類を定期的に提示してもらうことを規定したり、弁護士や公認会計士、税理士等の第三者による帳簿閲覧請求権を規定しておくこともあります。

 

利益ベースで50%程度のロイヤリティ契約もありますが、これは発注者も初期投資があまりできない場合で、契約の性質が発注者とデザイナーのレベニューシェア型(上記4)のものといえるでしょう。地方の伝統産業やこれまでデザイナーと関わりがなかった中小企業がデザイナーを採用する際に、こういう共同事業的な契約が採用されることが増えてきているように思います。

 

一括か、ロイヤリティかは著作権などの知的財産権を譲渡するのか、ライセンスするのかにもよってきます。ただ、ここで抑えておいていただきたいのは、知財権を譲渡する場合には必ず一括になると考えるデザイナーが多いですが、これは誤解です。たしかに、知財権を譲渡する場合に一括になりやすい傾向はありますが、これは必ずしも論理的にそうなるというものではなく、権利を譲渡してもロイヤリティ方式やイニシャル+ロイヤリティ方式で契約することはデザイナー・クライアント双方が合意すれば可能です。ロイヤリティだからといって、知財権の利用・実施料とは限らず、契約によって柔軟な設計が可能です。

 

また、交通費や宿泊費等の経費が上記デザイン料に含まれるのか、別途請求できるのかについても、仕事を始める前に話し合っておく必要があります。また、試作等にそれなりのお金がかかることが予想される場合には、この経費をデザイン料とは別に請求できるのかは事前に明確にしておくべきです。特に、イニシャルがもらえない2のロイヤリティ方式の支払いを採用する場合にこの点はより切実になります。

 

5のコンサル契約も近年増えてきている契約形態です。クライアント側としても継続的にデザイナーに関わってもらうことで、製品・サービス群に統一感が生まれ、企業としてブランディングにつながるメリットがあります。昨今提唱されている「デザイン経営」の考え方にも合致する契約形態です。この契約形態の際の注意点は、「コンサルティング」という業務内容にどこまでの業務が含まれるのか、明確化しておくことです。定例ミーティングに出席してコメントすればよいのか、具体的なデザインの提案なども含むものなのか等です。

 

以上、それぞれの支払い形態をみてきましたが、重要なことは、その案件において何がフェアなのか、を仕事を始める前に依頼者とデザイナーで膝をつきあわせて話し合える(そして、それを契約書などの書面やメール等で記録しておく)ことです。これもすべて契約の話なのですが、そんな話をすると「仕事が来なくなるかも」と怖くなってしまうデザイナーもいるかもしれません。しかし、それが不当な要求でなくデザイナーとして正当な主張であるならば、そのような取引先とは付き合わず、デザイナーの価値を理解してくれる別の取引先と付き合っていくべきだと私は思います。

 

私がデザイナーにおすすめしたい契約形態は、3のイニシャル+ロイヤリティ形式の支払いです。クライアントがロイヤリティを嫌がる場面も多いと思いますが、ロイヤリティの発生条件は工夫することが可能です。例えば、「○年○月末までに、当該商品の売上げ(or利益)が○円に到達した場合」などと目標を設定し、それを実現した場合には一定のロイヤリティが発生する条件にしておくこと等が考えられます。こうしておけば、予想外にヒットした場合などにおける不公平感も薄まりますし、なによりデザイナーとクライアントがともに目標に向けて力を合わせることができます。そして、このようにデザイナーを発奮させるためのインセンティブを、契約上の工夫をすれば生み出すことも可能であることを企業などのクライアント・発注者も意識するとよいでしょう。

 

【参考】

JAGDA制作料金算定基準
http://www.jagda.or.jp/designfee/cf_fee.html

「デザイナー・中小企業のためのデザイン契約のポイント」(経済産業省・近畿経済産業局)30・31ページhttp://www.kansai.meti.go.jp/2tokkyo/02shiensaku/guide/2017design_houkoku.pdf

水野 祐 (みずの たすく)

弁護士(シティライツ法律事務所)。Arts and Law理事。Creative Commons Japan理事。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(リーガルデザイン・ラボ)。グッドデザイン賞審査員。IT、クリエイティブ、まちづくり等の先端・戦略法務に従事しつつ、行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』(フィルムアート)、『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』(オライリー・ジャパン、共同翻訳・執筆)など。

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