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フロット(後編) TとFが再び一つになって、地域を元気に

経営者を、働く社員を、企業を元気に。デザインによる課題解決の先にある最終的な目的はそこにあるという考えから、地域の中小企業と共に成長するための場を提供するフロット。人材育成にも苦労しながら取り組み、社名の由来である「Frontal Lobe of TAMIYA(=田宮の前頭葉)」として新たな可能性を切り開く。そして再び田宮印刷と共に、TとFの2つの頭文字を持ったトータルデザインカンパニーとして、田宮五郎氏の志を受け継ぎ地域の発展に取り組んでいく。

TとFが再び一つになって、地域を元気に

五十嵐 こちらは天童の丸櫻建成さんのホームページです。人材不足で人が集まらなくて困っていたところに、東京で設計士として活躍されていた息子さんが戻られて、ホームページもロゴマークもない現状を見て、これではいけないということで相談を頂きました。

フロットが手掛けた丸櫻建成のホームページ

五十嵐 お会いしていろいろと話しているうちに、大工さんの技をちゃんと見せたいけれども、あっと言わせるデザイン力も醸し出したいというので、まずは丸と桜をモチーフに分かりやすいロゴマークを作って、ウェブサイトもどこか「普通の建設会社ではないな」と思わせるような趣向を凝らして、ホームページを仕上げることができました。

ここには女性の若い大工さんがいて、その後、新聞やテレビで取り上げられていました。ホームページをきっかけに、経営者さんがどんどん外に会社を開いていこうという気持ちになるような、そんなお手伝いができたのかなと思います。経営者さんなり会社の人たちのモチベーションが上がっていけば、その会社は良くなっていくはずなので、そのきっかけをデザインでつくりたいというのが一番の思いです。

―経営者向けに「スタジオたね」という取り組みも行っていますね。

五十嵐 それも同じ思いでやっているものです。会社というのはどこかで地域貢献を考えなければいけませんよね。印刷会社で地域貢献となるとフリーペーパーを作ろうという話になりがちなんですが、山形にはいいフリーペーパーがもうたくさんあって、いまさらうちがやることではありません。それよりも地域に90%ある中小企業が元気になれば、それは地域貢献につながるだろうと考えました。

そこで、経営者の方たちと一緒に勉強する、成長する機会をつくろうということで「スタジオたね」を設立しました。田宮印刷の中にある、もともと工場だった広いスペースを撮影スタジオにし、セミナーもそこで行っています。中小企業を中心に、経営の近いところにデザインやクリエイティブを位置付けていただけるような活動にしていければと考えています。同時に、そのような課題解決視点でものづくりができるデザイナーを育成していきたいとも思います。この地域活性プロジェクトをさらに展開させ私たちらしい形でCSRにも取り組んでいきたいです。

田宮印刷の中のスペースで行われている「スタジオたね」の様子

―社員の採用と育成はどのように行っていますか。

五十嵐 東北芸術工科大(芸工大)さんから学生を紹介していただくなどして、クリエイティビティーの高い資質の子を採用できています。仙台からは東北工業大からの採用もありました。採用後は新入社員用の1年間のカリキュラムを作って行っていますが、正直なところ、まだそこは課題です。「やっぱり違う」と感じて辞める人もいて、そのたびに何か足りないんだなと感じます。

独立していくケースもあります。自分の目標到達までスピーディーに行きたい人は組織の中でゆっくり足並みをそろえたやり方では物足りなくなり、フリーでどんどん自分の名前で仕事をするようになりますね。それでも私たちはみんなで会社を維持するという目的があるので、歩調はゆっくりでもみんなで確実にできるやり方を見つけていく。そういう組織が合う人たちは残り、そうでない人は抜けて、それでいいのかなと思っています。

独立して辞めるというと、昔ながらの会社ですから「もう連絡もするな」なんていう時代もありましたが、時代も変わって、育てた人が独立するんだったらそれは応援しようと、いまでは外注先として仕事をお願いしています。うちにとっても育てた人は財産ですし、そういう良好な関係ができるようになると、優れたデザイナーさんが独立したときに「うわー、どうしよう」なんて慌てることもなくなりました。

組織でいることの良さもあると思っています。例えばうちは女性の比率が多いので産休や育休も多いですし、介護と仕事の両立を必要とする方も出てきていますので、そこは就業規則で整備してあります。運用のためにも人数が必要ですし、在宅勤務などの多様な働き方も取り入れています。担当のデザイナーが誰にも気にしてもらえず1人で夜中までやるのではなく、営業も含めチームを作って、常に何人かで取り組めるという安心感もありますよね。そういう、組織でなければできない仕事の仕方を突き詰めていくことで、社員が長く定着して育っていくようにしたいです。

2018年度の新卒社員。実務とスキルアップに日々励む

―仙台での展開については今後どのようにお考えでしょう。

五十嵐 同じようにいろいろな経営者の方たちとこれから知り合っていきたいです。デザインに関する理解も仙台の方がずっと進んでいますし、私たちが理念に共感を持てるような、そして相手の企業さんも私たちのやり方に「なるほどね」と思ってもらえるような、そういう出会いがあればいいですね。

先日参加したセミナーで、いまはプッシュ型からプル型の社会に変わってきているという話を聞きました。マーケットの顔色を見ながら、市場にどれだけお金を投資すれば勝てるのかというマーケティングより、自分たちを磨いていいところをはっきりさせ見つけてほしい人に見つけてもらうブランディングがますます必要になっていくだろうというお話でした。私たちがやっているのは相手の会社さんにとっても非常に大事なことなんだなと確信を持ったので、仙台でもお役立ちできればと思っています。

―田宮印刷にとっても、フロットが大きな可能性になっていますね。

五十嵐 そうなれるように頑張ります。一方で、こうしたブランディングの仕事だけで工場の大きな印刷機は回りません。減ったといっても広く情報を伝えるために大量に印刷する仕事はまだまだ世の中にたくさんありますし、いままで通り流通系チラシなどを効率的に作る体制も維持して、ブランディングとその両輪ですよね。

田宮印刷とフロットの頭文字を取ったTとFというロゴマークがあります。初めにお話ししたような経緯でフロットは独立して、そこで地力を付けてきました。そしてまた新たな役割や強みを持って田宮印刷と一緒に組むことで、印刷だけではないトータルデザインの仕事が増えてきていると実感していますし、それを広げていきたいです。

山形県内で流れている田宮印刷とフロットのテレビCM

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社フロット

■山形 〒990-2251 山形県山形市立谷川3-1410-1

■仙台 〒983-0803 宮城県仙台市宮城野区小田原1丁目7-

ブランディングおよびセールスプロモーションの、企画・デザイン、取材、撮影、動画編集など。

社員34名(2019年現在)で、中小企業のブランディングのほか、大学や病院の広報、食品メーカー・食品スーパーの販促実績多数。

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