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クリエイターインタビュー|川上 謙さん(前編)

東北芸術工科大学の出身で、現在は仙台在住の建築家である川上謙(かわかみ けん)さん。リノベーション専門の設計事務所LIFE RECORD ARCHITECTSの代表として、仙台を拠点に活動されている川上さんにお話を伺いました。

―東北芸術工科大学(以下、芸工大)のご出身だそうですが、入学のきっかけを教えてください。

子どもの頃から立体的なものをつくるのがとても好きでした。当時は建築を特別に意識していた訳ではないですけど、祖父や伯父が建築の仕事に携わっていて、建築というものが周りに自然とありました。例えば僕が生まれ育った実家は祖父が建てたんですよ。そんな環境だったので、自分で何かものをつくろうと思った時に、建築をやりたいなぁと思ったのが最初のきっかけです。

あと、芸工大を選んだ理由としては「デンマーク王立芸術アカデミー」への交換留学制度があることを高校生の時に知ったので、それを利用してデンマークに留学したかったというのもあります。小学生の頃にカナダに少しだけ暮らしていたことがあって、その事がきっかけで外国をいろいろ見て回るのが好きになりましたが、ヨーロッパには行ったことがなかったのでデザインや芸術にも歴史ある地域で実際に暮らしてみて文化を感じたいと思ったのも芸工大に進んだ理由です。

関東から東北、山形に行くことに抵抗はなかったですか?

正直ありましたね。生まれは神奈川ですし、高校までは宇都宮にいたので、周りの友達はみんな都心に出るのが当たり前で、その流れに逆らうように山形に来てしまったので。ただ、両親は仙台で生まれ育ち、親戚もみんな仙台にいたので少なからず東北に縁を感じていたので「まいっか」と。でも来てみたら「本当、田舎だなぁ」「何も無いなぁ」って。最初は山形弁のリスニングすら出来なかったですし(笑)。

ですが、生活や活動をしていく中で、「何も無い」というのは自分の捉え方次第でした。確かに都内のようにたくさんの施設や物が溢れている環境では無いですが、変わりに山や川、温泉や食など都内では味わえない東北や山形の魅力に気付く事ができました。また、「無いのであれば自分たちでつくればいいんだ!」ってことに気が付いて。そこから都会にはないローカルの面白さや、山形での生活の楽しさや魅力を知れたことが、今の活動につながっているんです。

学生の時に、山形市の七日町にある、使われていなかった旅館を友人らとセルフリノベでシェアハウスにして暮らし始めました。「七日町」って仙台で言えば「一番町通り」のような位置づけで、山形市では一番の商店街でかつてはとても賑わっていた場所でした。山形の中心地で暮らしながら、周りにある他の空き物件にもコミットしていったり、芸工大の芸術学部の人たちと一緒にものづくりしたり、アート作品をつくって展示をしたり、いろんな活動をしました。それがきっかけで、自分たちで自ら手を動かしていけば、みんなの手によって楽しい「まち」をつくる事が出来ると気付けたのが一番大きかったです。

それって都会だとなかなか難しいじゃないですか。中心市街地はすでに出来上がっていますし、学生が入って行く余地は無い。だけど山形であれば、まちの中心で学生が実験的に活動できる。山形は可能性に溢れていました。

芸工大卒業後に仙台にいらっしゃったのもローカルな魅力を感じたからですか?

そうですね。ローカルに魅力を感じていながらも、まずは設計者として力を付けるために東京や大阪などの都心に修行することを検討していました。でも、卒業する年が震災の年で。親戚はみんな仙台にいましたし、友人も多く東北や仙台にいたので、自分が戻って何ができるかわからないけど、とりあえず仙台に戻って活動したいと思って。

ご自身の設計事務所を「リノベーション専門」にしたのは、どういった理由があったのでしょうか。

一番はリノベーションを広めたいというところですね。最近になってようやく仙台では「リノベーション」という言葉自体は普及してきましたが、本来のよさはまだまだ浸透しきってはいないと思っていて。だけど、これから空き家は増えていきますし、新築の件数も人口の減少とともにどんどん減っていくのが明らか。そんな中で、リノベを主体にすることで、そのような社会問題に対応出来るように考えています。あとは、リノベ専門の設計事務所としてはまだ仙台になかったので、自分の強みが出せるかなと思っています。

大学ではリノベーションの研究をされていたのですか?

学部の頃は建築全般を勉強していたのですが、大学4年の時のデンマークへの留学が自分の中で大きなきっかけとなっています。当時はデンマークを出発点にヨーロッパをぐるり回るなど、バックパッカーをしていました。その中でいい建築ってなんだろうって考えていくうちに、建物としてのかっこよさとか美しさよりも、その空間を使う人がどういう気持ちで使うのかというような、ソフトの方に興味がわいてきたんです。

リノベーションの活動を始めるまでの経緯を振り返る川上さん

例えば、デンマークでは二つ印象的なものがあって、一つは、ルイジアナ美術館という有名な美術館。美術館自体の建築ももちろん素敵なんですが、使われ方がすごく魅力的。当時日本の美術館の多くは、「静かにしないといけない」とか、「作品に触れちゃいけない」という縛りが多く、とても厳かな雰囲気。でもルイジアナの場合は、屋外のアーティストの彫刻が展示されている隣でお客さんがシートを広げて自分の家でつくって持ってきたお弁当を食べているというような風景がそこら中にあって、とても自由にまるで公園のように使われていました。彼らにとってアートは当たり前に存在していて、またそれによって人と人の距離を縮められています。アートの位置づけや美術館のあり方を改めて考えさせられました。

もう一つはデンマークの墓地です。教会の隣に十字架が刺さったお墓が並んでいますが、日本の墓地と違い木々や芝生、お花がとても綺麗に整備されてとても美しい場所が多いです。お墓の隣でシートを広げてピクニックをして読書している人がいたり、上半身裸でうつぶせになって日焼けしている女性がいたり。お墓って日本では法事やお彼岸などの時期しか行かず、時にネガティブなイメージもありますけど、つくり方と使う人の気持ち次第でポジティブになるのかとびっくりして。建築よりも先にやらなきゃいけないことがあるんじゃないかってデンマークに留学して気付けました。

日本に帰ってきて、「空き家をどのように使っていくか」という解答を探すのがリノベーションだと思い始めたのも大きいです。ハードの部分はほんの少し手入れをするぐらいでも、ソフトの部分、使い方を提案するだけで、空間的に「生き生き」とする事例もあると思うんですよ。建築ってもっとソフトのところを大事にしないといけないって感じたのが、リノベを始めたきっかけだったかもしれないです。

 

そこから大学院に入って、リノベーションの活動を始めたのですね。

リノベーションとコミュニティデザインを行き来するようなやり方で活動していました。リノベのハードとソフトを両立できるように同期の友人と共にプロジェクトを立ち上げてメンバーで活動する事が多かったです。当時から色んな人と関わりを持ってものづくりをする事を大切にしていました。偏らないバランス感覚がリノベではとても大切です。芸工大の竹内昌義教授や馬場正尊教授といったリノベーションに精通した先生のもとで勉強できたことも、今ではすごく力になっています。「せんだいリノベーションまちづくり」をはじめ、今でも関係を持って活動出来る事もとてもうれしく感じています。先生たちとお話ししていると学生気分に戻ってしまいますね。良い意味で(笑)。

卒業して仙台に来てからも先生と交流があるのですね。それは芸工大ならではでしょうか?

ならではだと思います。おそらく都内の大学だと、先生たちは授業後に電車で家に帰れますが、芸工大ってある種要塞みたいな感じで(笑)。東京から来る先生も多く大体週2日学校にいます。その場合日帰りで東京という訳にいかないので、一日目の夜は、山形に泊まります。なので、先生とはよくごはんを共にする時間がありました。山形のコミュニティはミニマムで他学科の先生たちも大体飲みに行く場所が決まって一緒なので、別で楽しんでいるところに、交じれたのは良かったですね。芸工大の先生は建築以外の分野も面白い先生が多くいらっしゃって、色んな方と密にコミュニケーションを取れたこと自体もいい経験でしたし、色んな意見を言ってもらえるから偏らないんですよね。「建築の先生はああ言っていたけど、芸術の先生はそう言うし」みたいな。大変な面もありますけど、それが一番の面白さでした。

意見を言ってくれる人がいるのは、フリーになってからも大きいですか。

大きいですね。先生もそうですし、一緒に仕事をしていく業界の先輩や後輩、学生の頃一緒に活動していた仲間もそろそろ30歳を超えてきて。そういう人たちから今でもアドバイスをもらえるのはありがたく思っています。

取材日:平成29年7月20日
聞き手:SC3事務局(仙台市産業振興課)
構成:岡沼 美樹恵

前編 > 中編 > 後編(12/1更新)

川上 謙

1986年神奈川県生まれ。栃木県宇都宮市育ち。

東北芸術工科大学院修了。

仙台市の設計工務店に勤め、住宅や店舗などの設計施工に携わる。

2015年 LIFE RECORD ARCHITECTS設立

仙台を拠点に宮城、山形を中心に活動。

独立後はリノベーションを中心とした活動を行う。

仙台リノベーションまちづくり実行委員着任後、他業種のメンバーからなる「街の庭師」を設立。仙台をもっと楽しく、豊かな暮らしへの実現に向けての挑戦を行っている。

 

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