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クリエイターインタビュー後編|吉村 尚子(美術家)

自分とは違う価値観を持った人がいる場所に行って感覚を研ぎ澄ましたい。

インスタレーション作品を多く発表している美術家・吉村尚子さんは、働くことと好きなことを切り離して考えていない。自らの価値観に捉われることなく、自分の直感を信じ抜き作品へと昇華させていく姿がとても輝かしく見える。東京出身の彼女を魅了した仙台には、一体どのような魅力が潜んでいるのだろう。仙台で週5日働きながら作品を制作し続ける原動力を覗いてみたい。

 

-仙台に住んだからこそ、活動の幅が広がった印象はありますか?

あります。仙台に移住して最初に勤めたのが、とある大学の図書館で、そこが数学科の大学院生とか研究職の方が出入りするような場所だったんです。その環境に触発されて元同僚と立ち上げたのが「数学でちょっと楽しく幸せに∞」をコンセプトにしたMATHユニット[SRUST](スラスト)。仙台に住んで働いたからこそ数学の魅力に気づけたし、今も一緒に活動している元同僚は美術や音楽関係以外で巡り会えたとても大切な同志です。

-なぜ数学をテーマに敷いているのでしょう?

以前は数学が大嫌いでした。「よく好きこのんで数学を追求できるわね」と思いながら研究者を見ていたくらいだったんです。でも見方が変わった途端、目の前の世界がひろがって、まさにカルチャーショックを受けました。

-どんなふうに印象が変わっていったんですか?

純粋に追求する数学って、他の理系分野と比べて一般企業への就職などに直結しにくいらしいんです。数学者はそんな現実を承知のうえで、一途な想いで命を削りながら地道に研究している人がほとんど。それが、アーティストが作品と向き合う様子と重なって見えて、すごく共感して仲間意識を持つようになったんです。それからは数学の記号でさえかっこよく見えて、さらには人生をかけて数学に没頭している彼らのことを皆さんにもっと知ってほしいとも思うようになったんです。私は[SRUST]を立ち上げただけで数学は全くできませんが、メンバーと活動することで奥深い数学の息吹を感じさせてもらっています。

-どのように数学とアートを融合させたのか気になります。

例えば、仙台アンデパンダン展(※)で行なったパフォーマンスでは、メンバーが直接お客様自身のことを伺い、オリジナルの数式に書き表したりしました。意外だったのですが、自分の数式ができあがるとお客様が晴れやかな顔をして帰っていくのが印象的で、これはあくまで私の憶測ですが、数学の記号が各自で抱え込んでいた言語化できないモヤモヤを客観的な数式という形でアウトプットしたことによって何かがスッキリしたのかもしれないと思うんです。今まで空間や光を使った作品が多かったんですけど、数学が自己内観装置として機能した瞬間は驚いたし、私も満たされました。

※仙台アンデパンダン展… 仙台で開催されるジャンルや経験などを問わない無鑑査の美術展。

仙台の数学者たちが参加者の目標や大切にしていることなどをオリジナルの数式に表現している様子。できあがった数式は封筒に入れてお客様に受け渡したそう。パフォーマンス名「Math 4 You -あなたの数式つくります-」

-かなり広く活動されている印象を受けますが、週5日働きながら作品を制作したり、何かを企画することは辛くないですか?

今は9時から16時まで広報・事務関係の仕事をしていますが、制作が始まれば仕事以外の時間は自宅の作業部屋で寝食を忘れてしまうくらい制作にずっと集中しているんです。私の場合は、その時間がとても幸せです。

-働きながら活動するメリットは感じますか?

もちろん仕事は真面目にやるんですけど、私にとって勤務先は創造のタネをインストールする場所でもあります。働くことによって思わぬ方向で数学がアートに転んだり、作品に直結するようなフィーリングを得ることもあります。作品を制作するにあたって「浮世ってどんなものなんだろう」っていうのを常に考えているので、自分とは全く違う価値観に出会える場所はすごく大切なんです。

-仙台で活動していて良かったことはありますか?

仙台に移住した当初、一度展覧会を開催しただけで展示のお誘いをいくつか頂いたのですが、あれやこれやと1年の間に発表の機会が次々と決まったおかげで、物凄いスピード感で多くの挑戦ができました。しかもジャンルの偏りなく色々な人が見に来てくれる。作品は自分のために作っていますが、私が敢えて発表するのは作品をきっかけにあらゆることを様々な角度から話し合ってみたいからなんです。それが日常的にできる仙台はすごいと思います。やっぱり仙台のギャラリーは間口が広くて、フラットな感覚の人が多いなという感触はありました。

-反対に「思っていたのと違う」というギャップがあれば教えてください。

友人の話なのですが、公園でささやかにギターの練習をしていたら管理者の方に注意されてしまったみたいで、ちょっと意外だなと思いました。仙台にはジャズフェス(※)があるし、音楽には開かれたイメージが強かったので。公共の場所でなんでも自由にさせてほしいとまでは思いませんが、仙台は文化的な街だと思うのでその特徴をもっともっと色濃くして、今よりも柔軟に場所を解放して、より一層色々なジャンルの人たちが集まるようになったら面白いなと思います。

※ジャズフェス… 定禅寺ストリートジャズフェスティバル。定禅寺通りをはじめとした仙台の街がジャズやロックなどのステージとなり、2日間に渡って開催される。

自宅の作業場で制作中の吉村さん。手動映写機から“動く光と影”が生み出される作品の装置をアップデート中。

-最後に、仙台で活動するアーティストや、これから活動したいと思っている方にメッセージをお願いします。

肩書きにこだわりすぎず、唯一無二の自分の生き方を楽しんでほしいです。あと、仙台出身なのに仙台の良さに気づいていない人が多い気がするので、魅力的な場所に住んでいることにも気づいてほしいです。街自体も素晴らしいし、人も良い。しかも、素敵なミュージシャンやアーティスト達がたくさんいて、働いたりもしながら面白くてかっこいい作品を作っているんです。そこかしこに文化の気配が漂っているような土壌がある仙台はかっこいいし、本当に夢の国だと思います。

取材日:令和元年6月29日
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:豊田 拓弥

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吉村尚子

1978年東京都生まれ。「人力発電・人力動力」「自己内観装置としての芸術」というテーマを軸に作品を制作している。 こども美術教室 artSIZE(池田晃一氏主宰)にてアシスタント講師として自由な表現を大切にする場作りを学び、現在は年齢や美術経験の有無に関係なく楽しめるワークショップを定期的に開催している。東北で出会った若手数学者たちとMATHユニット[SRUST]を立ち上げ、「数学でちょっと楽しくシアワセに」をコンセプトに数学啓蒙プロジェクトも行っている。 仙台に魅せられ、東京から通うこと4年。現在は念願叶って仙台住人に。

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