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クリエイターインタビュー前編|郷内 和軌(ライター)

スポーツは筋書きのないドラマ。だからこそ「読む」ことも大事だと思うんです。

フリーランスのライター、郷内和軌さんは岩手と宮城を拠点にスポーツ誌をはじめ、様々な媒体で人やものの魅力を伝え続けている。スポーツの話題になると、おっとりとした口調は変わらないが笑みをこぼしながら言葉を弾ませた。そんな彼の背景に迫るためにスポーツへのメディアのあり方を学んだ学生時代を中心に、ライターを始めるきっかけやスポーツの魅力を伺った。

 

-現在はスポーツ誌へのライティングを中心に仕事をされていますが、まずスポーツのどういったところが好きですか?

スポーツはよく「筋書きのないドラマ」と言われるのですが、自分でプレーするにしても、観戦するにしても心が動かされるところですね。自分がプレーするときは保護者の方や友達が応援してくれるし、観戦するときはファンやサポーターと一緒に盛り上がることが昔から好きだったんです。

-いつからライターという仕事に興味を持っていたのでしょうか?

小学生からサッカーをしていたんですけど、父親が中学校の保健体育の教師をしていたので暇さえあればずっとスポーツを見ているような環境で育ったんです。そのときからほぼ毎日、新聞では政治欄を飛ばしてスポーツ欄とテレビ欄だけをチェックしていました(笑)。中学生になると、ウェブサイトのスポーツニュースやスポーツ誌を読んで楽しんでいたんです。試合の前後に記事を読んだりすると、試合内容やプレー自体をもっと楽しめるし、そのときの感動を自分の中により深く落とし込められる気がするんですよね。なので、スポーツの奥底まで知るためには「見る」だけではなくて「読む」ことも大事だと思っていて、自分もスポーツ記事を執筆してみたいという想いがありました。でも正直なところ、本当にライターになれるかどうかはわからないし他の道もあると思っていたので、当時はそれほど深く考えているわけではありませんでした。だけど年月が経つにつれて、やっぱり自分はものを伝える仕事がしたいんだと気づいて、漠然とスポーツに関わる仕事をしたいなと思いました。

思い出の詰まったキャンパスで当時を振り返る郷内さん

-進学先に仙台大学のスポーツ情報マスメディア学科を選んだ理由はなんですか?

高校1年生のとき進路を探していたら偶然見つけたんです。この学科は新設されて間もなかったのですが、自分にぴったりの学科だなと思い、とりあえず高校2年生のときにオープンキャンパスに行ってみることにしました。実際に足を運んでみたら、教授にスポーツの話をすれば私と同じ熱量で返してくれて、それがすごくうれしかったんです。そんな大学の雰囲気に惹かれ、入学を決めました。

-実際に通ってみていかがでしたか?

スポーツが好きな学生が集まっているので、お互いが好きなスポーツのマニアックな話もできて勉強になったし、本当に楽しかったですね。あと、1年生から映像アカデミー(現:スポーツ情報サポート研究会メディア班)という、主に動画の撮影や編集を行う団体に入りました。そこでは、講師として実際にテレビ業界で働いている方に来ていただき、映像制作を通して取材のノウハウなどを教えていただきました。また、大学の広報室の方も自分たちを気にかけてくださって、取材現場にも同行させていただき様々な経験を積むことができたと思います。当時の職員の方は今でもお世話になっている方なので、とても感謝しています。

学生時代、郷内さんが実際に映像アカデミーとして活動している様子。【写真提供:仙台大学】

-在学中、印象に残っていることはなんですか?

人見知りの性格で積極的に話しかけられなかったのですが、取材中に頑張って接したことによって人との繋がりを築けたことがとてもうれしかったです。大学に入学する前までは文章を書くことだけがライターの仕事だと思っていたんですけど、人と接して話を聞くことが一番大事なんだなと気づきました。あとは、映像を編集できる教室でフォトショップを使えるパソコンがあったので、3年生のときに自分が編集長となってフリーペーパーを制作しました。例えば、当時の学生に女子サッカーの大学日本代表に選出された選手がいたので、本人に取材し、できあがった記事をオープンキャンパスに来た高校生に配布したり、学食の入り口に置かせてもらったりしていました。果たしてどれくらいの人が読んでくれたのかはわかりませんが(笑)。

当時、自主的に制作したフリーペーパーを見ながら学生時代を懐かしむ郷内さん。

-学生時代は映像アカデミーの活動に打ち込んでいたとのことですが、どのような経緯でライターになったのでしょうか?

スポーツマガジン『Standard』というスポーツ誌があって、2010年に岩手県で創刊された雑誌なのですが、それが宮城でも制作されることになったんです。自分が4年生の夏くらいに、お世話になっていた大学職員の方を通して第2号を制作するに当たってアルバイトの学生ライターを探しているというお話をいただいて、やりますとすぐに手を挙げました。岩手県出身なので、もともと『Standard』自体は知っていて、スポーツに関係する記事が書けるとあって、やらない理由はないと思いましたね。当時のアルバイトとしての経験が大学卒業後の就職に活かされました。

河北スポーツマガジン『Standard』宮城版。

-とてもいいタイミングで憧れの仕事にアルバイトとして関われたのですね。

そうですね。就職活動でみんながうまく内定をとっていく中で、この先どうすればいいんだろうと悩んでいた時期でしたが、憧れていた仕事に携われるし、とにかく挑戦してみようと気持ちを切り替えることができました。最初は2〜4ページだったのが、だんだんと10ページ、20ページと任せてもらえるようになりました。そのときはうれしかったのと同時に、卒論も仕上げなければならない時期だったので大学生活の中で一番大変でした。当時は、働くことってこんなに辛いんだなと思ったくらいです(笑)。

-大学卒業後はどのようにキャリアを重ねたのでしょうか?

実は4年生の冬になっても進路が決まっておらず少し焦りもありました。でも、ちょうどそのとき『Standard』岩手版のスタッフが足りなくなっていたみたいなんです。そこで、宮城の編集部でアルバイトをしていて、しかも岩手県出身の学生がいるということで、自分に声が掛かったんですよね。そして大学を卒業してすぐ4月から『Standard』の制作を一部請け負っている岩手県盛岡市の株式会社ライト・ア・ライトで働き始めました。

取材日:令和2年1月21日
取材協力:仙台大学
取材・構成:佐藤 綾香
撮影:小泉 俊幸

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郷内和軌

1992年生まれ、岩手県一関市出身。岩手県立一関第一高等学校卒業後、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科に進学。アルバイト等で執筆経験を積み、20154月より岩手県盛岡市の制作会社「株式会社ライト・ア・ライト」に入社。地域限定スポーツ誌「Standard」などの制作に携わり、昨年4月よりフリーランスに。趣味はJリーグ観戦。中でもベガルタ仙台の試合は、年に数回の現地観戦を含み、すべての試合を観戦している。

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