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ピー・ソフトハウス(中編)社員の熱意で始めたモバイルアプリがもたらした恩恵

ピー・ソフトハウスの名は、モバイルアプリにより一般ユーザーにまで広く知られることになる。社員の熱意に押され立ち上げた事業はヒットを連発し、会社の収益の柱にもなった。やがてモバイルアプリの収益モデルが変化し多くのアプリメーカーは苦境に立たされるが、ピー・ソフトハウスがリリースする製品は優れた営業マンのように、同社が持つ独自の要素技術を伝えるプロモーションツールとしての役割をいまも担っている。

社員の熱意で始めたモバイルアプリがもたらした恩恵

―その後、ソフトウエア事業はどのような状況でしょう。

畠山 CG制作ソフト「Pencil+(ペンシルプラス)」のバージョン2をリリースしたころに、ちょうど業界でもアニメ映画などコストがある程度ある制作物は3Dで作るという風潮が強まって、売れ出しました。現在では日本のアニメ業界でデファクトスタンダードといわれる製品に育ち、その後もバージョンアップを重ね、2017年にバージョン4をリリースしたところです。

音楽ソフトの方は、OSやコンパイラー(ソースコードをオブジェクトコードに変換するためのソフトウエア)が代替わりしてメンテナンスする環境がなくなったこともあり、PC用アプリケーションは販売を終了しました。また、音声信号処理エンジンを、カラオケやオーディオ系の大手メーカー複数社にライセンスしています。

新規の事業として2010年ごろ、モバイルのソフトウエアをリリースしました。「AR Missile(ミサイル)」や「Zen Brush(ゼンブラシ)」というヒット作が生まれ、ゲーム以外でのパブリッシャーとしては国内でも認知されるようになり、アップルCEOのティム・クックさんが仙台まで会いに来てくださいました。

既存の事業であるゲームソフト開発も27年間ずっと継続して作っています。

モバイルアプリ参入後、最初のヒット作となった「AR Missile」(画像はiPhone版)

―モバイルにはなぜ着手されたんですか。

畠山 会社の有志で「どうしてもやらせてほしい」という申し出があったんです。iPhoneが出た当時やりたいと言われていたんですが、「そんなのは売れないからやらない」とか「遊んでないで仕事しろ」なんて言っていたんですね(笑) それでもiPadが出る時にまた「どうしてもやりたいんでやらせてください」と言われて、この頃になるとアプリを購入することが定着してきており、渋々ですがOKして、すぐにヨドバシカメラで開発機材のMacを3台買ってきました。

iPadはこれくらいのこういうものらしいと段ボールに絵を描いて、これで何を作ろうかというのをみんなでブレーンストーミングして、出てきたネタの中からいけそうなものをピックアップして、売れそうだと思う順番に開発していきました。

Zen Brushは書き味にこだわったソフトです。当時こういうものはカクカクした線にしかならなかったんですが、それを滑らかに書けるように開発したので話題になり、iPad 2がローンチしたときに世界中のアップルストアのデモソフトウエアに採用されました。

サムスンやマイクロソフトのハードへも移植しました。マイクロソフトではsurface新機種発表デモンストレーションに採用され、量販店のsurface Proのデモとして展示されています。

Apple App Store BEST OF 2015を受賞した「Zen Brush 2」(画像はiPad Pro版)

―会社としてそちらにかじを切った、というわけではないんですか。

畠山 そうではありません。どちらの製品も購入モデルですので、3年ぐらいはけっこうな収益が上がったんですが、その後まったくアプリが売れない時代になりましたよね。広告モデルになって、内部課金モデルになって。そうなるともう、アプリにお金を出して買ってくれる人がいないんですよね。ですので、現状はそこから大きな収益が望めるとは思っていません。

そもそもモバイルアプリをリリースすることを決めた理由の一つに、10数年前に作った音声信号処理エンジンを活用しようということがありました。再生速度を変えても音程が変わらず、音程を変えても再生速度が変わらず、しかもきれいにリアルタイムで再生できる「PhaseGear(フェーズギア)」というもので、どんどん音質と速度を向上させていったんですが、当時の最新のコンピューターでも処理落ちしてしまって、倍速ぐらいまでしか再生できませんでした。

iPadが出る頃、コンピューターも速くなっているのでこれも動くんじゃないかという話になって、試してみたら本当にリアルタイムで再生できたんです。それをiOSアプリ「SHAKE-IT(シェイクイット) DJ」としてリリースしました。

―もともと持っていたリソースをモバイルに移植したんですね。

畠山 われわれは音や映像など要素技術はたくさん持っています。それにちょっとだけ手を加えることで有用なソフトウエアができるんじゃないかと考えて、いくつか出しました。「AR Missile」はAR(拡張現実)やトラッキング、「Zen Brush」はシミュレーションという技術を基にしたもので、ほかにも技術の無駄使い的なアプリもいっぱいあります(笑)

所有する要素技術を活用してリリースしてきたモバイルアプリ群

普通の人だと、ただ「面白いね」で終わっちゃうんですけど、その道の人、技術者なり商品企画の人が見れば、これは使えると気付いてもらえるんですね。「Zen Brush」のエンジン部分をほかのプラットフォームに移植したのもそうですし、「PhaseGear」のタイムストレッチ/ピッチシフトも、音質がいいのはプロの人が聴けば分かるんですよね。そうすると、そこからエンジン部分のライセンスにつながる。

アプリを何百円で売ってもうけようとしたわけではなくて、なかなか届かないようなところにわれわれの技術を周知させようということを目的にリリースしたものなんです。そういう意味で一定の成功は収めたと言えます。

アプリに使われている技術要素を説明する畠山社長

―社内にある技術を分かりやすく売り込むツールになるんですね。

畠山 そうです。例えば業界団体など上でつながりができても仕事としてなかなか下りてこないんですが、こういう要素技術であれば、うちの製品のこういう部分に使いたいと、具体的な話がいろいろな会社から来るわけです。しかも多くが大手の会社。そうした会社に技術ライセンスをしたり、開発の部隊がない会社さんに対しては受託開発を行ったりしています。

―高い技術力でオリジナルの製品を開発してきたからこそいまのビジネスモデルが成立していると思いますが、その力はどうやって培われてきたのでしょう。

畠山 当時ゲームソフトを作っているような会社は仙台になかったんですよね。ですから、ゲームソフトを作っているというだけで地元就職希望の優秀な人材が集まってくるんです。さらに特徴的なのは、うちでは本当は絵を描いてご飯を食べたいとか、音楽を仕事にしたいという人たちもプログラマーをしているんです。CGや音楽の分野についての知識が十分にあるので、それに特化したソフトウエアの開発も順調に進められたということがあります。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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株式会社ピー・ソフトハウス

1990年設立。PSOFTブランドのCG制作支援/音楽制作支援ソフトやPSOFT MOBILEブランドの携帯端末アプリのメーカーです。コンシューマゲーム機向けゲームソフト、制御系や組み込みシステム、デジタルコンテンツやWeb制作など、新サービスや新製品の開発など、受託の各種ソフトウエア開発も行っています。また、独自の特化した保有技術は他社へライセンスするなど、仙台でワールドワイドに事業展開しています。

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