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クリエイターインタビュー|松下 さちこさん(前編)

独自の世界観と強いメッセージを放つ作品から他を魅了し続けている在仙イラストレーターの松下さちこ(まつした さちこ)さん。今の作品スタイルを確立するまでの道のりや、思い出のお仕事のお話を通して、松下さんの価値観や生き方に迫ります。

 

―まずは、松下さんご自身についてお伺いします。ご出身、そして今までの経歴について教えてください。    

私、基本的には独学なんです。高校のときからひとり暮らしを始めるくらい自立心が異常に旺盛で絵がずっと好きだったので、中学3年生のときに「絵だけで生きていきたい」と思って。それで専門学校や美大に電話したんですけど、高校を出てから来るようなだめすかされて(笑)。でも、高校も行きたいところがないし、絵を描きたいからどうせやめるだろうと思って、学費や制服代が一番安いところを調べて行くことにして。高校では先生が「大学への推薦状を書いてあげるよ」と言ってくれたりもしたのですが、大人の世話になりたくなくて、「自分でどうにかします!」みたいな感じで断っちゃったんです。でも、「絵の仕事がしたい、したい」って言い続けていたら、だんだんそれを引っ張り上げてくれる大人たちが出てきて。「おもしろいな、おまえ、見せてみろ」って言われて作品を持っていくと、“描ければいい”っていうことで雇ってくれる社長さんがいて。それで、イラストレーターやテキスタイルのデザイナーをさせていただいていたときがあったんですけど、今みたいに自分の絵(スタイル)を持っていなかったので、来る仕事といえば、絵がそこそこ描ける人だったら描けるようなものの依頼しか来なかったんです。そのときは若かったこともあって自分の足りなさに気づけず、「私が描かなくてもいいじゃないか」ってくさって、子どもの頃から大好きだった絵が嫌いになりそうになってしまったんです。なので、絵の仕事からちょっと離れようと思って全然違う仕事を始めたんですけれど、絵から離れると逆に生きづらくなっちゃって、体を壊したり、精神的にだめになっちゃったんですよ。それで、400万貯めて2年間引きこもって、その最終形のところでやっぱり私は、絵から離れられないから、自分に何が足りないのか、自分がどこまで描けるのかを知りたいと思って、ムサビ(=武蔵美術大学)の通信をその貯金の残りで受けました。その時の教授が言ってくださった「基本ができていれば、あとは魅力があるかどうかだね」という言葉が、私の今の全ての指針になっています。基本ができたら、あとは人生経験積んで、とにかく絵に向かっていくしかない、まずは武器になるような自分の絵っていうのをとにかく持たなければと思って。それに、イラストレーターの世界にいずれ戻りたいし、戻るからには、自分が憧れを持っていた方たちと一緒の土俵に乗りたいなと思っていたので、その間を自分で“潜伏期間”って呼んでるんですけど(笑)、潜伏期間中はやっぱり自分の絵を持つっていうことを目指して、欲しい賞のコンペに作品を出したりしてました。

―これだという自分のスタイルが確立できるまでに、その“潜伏期間”のうちのどのくらいを費やしたのですか。

まだまだ変化中ですが。ようやく自分らしいものが描けるようになってきて、コンペで欲しかった賞もいただけて。とにかくもう依頼が来ていなくても、誰も求めてくれていなくても、とりあえずやってみよう!アルバイトとかほかの仕事はもうしないでやろうって思ってて、今に至るっていう感じですかね。

―不安な気持ちはありませんでしたか。

その当時プライベートでも色々あって一人暮らしに戻ることになり,夫婦で仕事をしていたので自ずと『住所不定無職』の状態になりました。まずはアトリエ兼住まいを探すところから、本当にゼロからスタートって感じでした。私、高校一年で自ら家を出て一人暮らしを始めたので、その時に戻ったみたいな気持ちでしたね。

―背水の陣ですよね。

そうです。本当にやるしかない!という感じのところに自分を追い込んで、動いたんです。「誰からも何もオファーとか来てないし」とか、「自分で勝手にやるって言ってるだけなのに」とか悩みながら、仕事もない中不動産回りをしていたときに、絵の世界に戻ったら、と思っていたインスタグラムを始めたんです。それから2週間が経ったときに、DMの赤いマークがついていて。「何だろう、これは」と思って開けてみたら、ダイレクトメッセージが何個か届いていて。それが結局、仕事の依頼とかプロジェクトのオファーで、結局1年後ぐらいに全部お仕事の形になったんです。そこで、この人たちが自分のことをいいって言ってくれるんだったら自分は大丈夫かもしれないと思ったし、過去の自分の選択が間違ってなかったのかなって少し自信が持てたので、とにかく進もうって思えたんです。私、自分を肯定できないネガティブな人間なんですよ。ただ、友達とか目の前にいる人が鏡だと思っているので、目の前の人がすてきな人だったら、自分もまんざらじゃないんじゃないかとか、間違ってないんじゃないかとか、そういう風にいつも思って生きていて。だから、こんな人たちがメッセージくれるんだったら大丈夫かなって思えました。

―それは何年ぐらい前のことですか。

覚悟を決めてほんとゼロからの、最終的に死ぬまでのチャレンジと思ってやったのが、2~3年前ですね。

─そこでダイレクトメッセージをくださった方というのは?

ニューヨークのプロジェクトは、「PAN AND THE DREAM」っていうファッションブランドのアートマガジンでした。ダイレクトメッセージに、「あなたの絵が気に入ったからEメールアドレスを教えてちょうだい」っていうのが来てて、Eメールアドレスを教えたら、「こういうプロジェクトがあって、こういう人たちの参加も決まってるけど、あなたも参加しませんか」って。そこには、ものすごい人たちの名前が載っていて、私が普段からファンで憧れてたような人たちの名前もたくさんあって。私がインスタを始めたきっかけになった、アンスキルド・ワーカーさんというイギリス人女性アーティストで、去年も今年もグッチとかとコラボしたような方がいるんですけど、その方の名前もあったんです。え?これ、騙されてるの?と思ったんですが、仮にアート詐欺だとしても、借金をしてでも、その人たちと一緒に何かしら載れるんであれば、詐欺でも何でもいいから乗っかってみよう、ということで参加しました。そこから1年ぐらいかけてインタビューのやりとりをして、形になったものが送られてきたときに、ページを開いたら、そのアンスキルドさんの隣のページに私が載ってたんです!今はその方にも認識していただいていて、インスタで「いいね」をもらったりとか、コメントもあるし、すごい嬉しいです。

"PAN AND THE DREAM"によるアートプロジェクトから第一弾として発売されたアートマガジン(Designed by paul belford image by collage artist isabelreitemeyer)
左:アンスキルド・ワーカーさんの作品 右:松下さんの作品

―憧れの人からというのはすごいですね。

すごく気さくな方なんですよ。形になったマガジンは、アートの検閲に関してのプロジェクトなんですが、今、ヌードとか、外国でも乳首は出しちゃだめみたいな、ばかばかしいことになってるんですよ。だから、自分たちアーティストが美しいものをつくって、ヌードは美しいものだっていうのを知らしめましょうっていうプロジェクトだったんです。あとは、もう1人、ダイレクトメッセージを同時期にくださった代官山のセレクトショップの方がいたんですが、その方は、今ファッション誌でファッショニスタとして取り上げられている方なんですけど、その方が後々、その「PAN AND THE DREAM」とつながって、日本の代理店になったんです。私も傍観しながら、「つながったよ…」とか思って。ひとつひとつが繋がって形になっていくのが見えるたびに、自分は間違ってなかったかなと思います。でもやっぱり不安だし、私大丈夫かなって心配になったりしますけどね。

―全然そんな感じには見えないです。

本当にそうなんですよ。気合いを入れて外に出ているので、家では泣いてばっかりいます(笑)。そんな感じなので、やっぱり自分のやってきたことが形になったこととか、あとは自分を引っ張り上げてくださろうとする方や興味持ってくださる方たちがいると、その都度「ああ大丈夫なのかな」と思いながら一歩一歩進んでいるっていう感じです。あとは、「不安になってる暇ないじゃん!」不安だ不安だって言って何もしないのは優雅だなと。自分の不安を解消してあげられるのは自分しかいないので、不安だからこそ働け!って自らお尻を叩いてます(笑)。

―その経緯を伺うと、インスタなどSNSの力はすごいですね。

すごいですね。例えば仕事の依頼とかも、ツイッター経由でホームページに飛んで、そこからくださるとか、どこかにSNSは絶対絡んでるんですよ。お店に置いてた名刺を手に取ってくださったとか、そういうのもあるんですけど。海外の方とパッとつながれるのは、やっぱりSNSならではですよね。

―発信方法としてはSNSが中心なのでしょうか。

そうですね。インスタグラムとタンブラーとフェイスブックとツイッター、あとホームページを持ってるんですけど、何かフェイスブックはもはやちょっと回覧板的な感じで使ってます。たぶん職種によると思うんですけど、私の場合はどうしてもビジュアルがわかりやすいインスタとかタンブラー、特にインスタが一番影響があると思います。あとは無料のギャラリーを自分で持てるみたいなサイトで、自分の作品をアップして告知したり仲介したりとか、ギャラリー兼ショップみたいな感じでそこを運営しています。

インスタ上でオリジナルグッズの受注販売会も開催
原宿ギャラリー・ルモンド企画展用の作品

―インスタを始めたころ、どうやってフォロワーを増やしたのでしょうか?

私は、絵だけで勝負したかったので、友達にもインスタを始めたことは言わなかったですね。海外の人とまずつながりたいと思ったので、最初はタイトルとかも全部英語でつけて、ハッシュタグもなるべく英語でつけたりして、海外向けに発信を始めたので、身内とつながったのは割と最近で。私を知らない人が絵だけで何かを求めてくれないか、絵だけでつながりたいと思って始めたんですよね。

―お仕事の流れとしては、SNSで発信して、メッセージが来るという感じなのですね。何か特別な営業活動はしていますか?

してないですね。なので、このSNSが営業みたいなことだとは思っています。

取材日:平成30年9月12日
取材場所提供:Botanicalitem&Cafe CYAN
聞き手:仙台市地域産業支援課、岡沼 美樹恵
構成:岡沼 美樹恵

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松下 さちこ

百貨店のイメージビジュアルやミュージシャンのアルバムジャケット、挿絵等を手がける。

第187回ザ・チョイス入選(ミナペルホネンデザイナー 皆川 明審査)。

ニューヨークを拠点とするブランド『PAN AND THE DREAM』主催のCENSOR PROJECTに世界的ファッションフォトグラファーNick Knightを筆頭に世界中から集められたアーティストと共に参加。
同プロジェクトよりアートマガジン出版。
ニューヨーク、ロンドン、パリ、デンマーク、東京等で販売中。

イラストレーターの年鑑「ファッションイラストレーション・ファイル2018 (玄光社)」イラストレーション・ファイルWebに掲載中。

https://i.fileweb.jp/

ファッションブランド「MelodyBasKet」の世界をビジュアル化した絵本を制作中。
映画『下妻物語 』の著書、嶽本野ばら氏をストーリーナビゲーターにイラストを担当。
2019夏 出版予定。

Instagram:https://www.instagram.com/m.sachiko.m/

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