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佐々木印刷所(前編) マッチ箱に入れたこけしとクリエイティブ

斜陽産業といわれがちな業界において、望むと望まざるとにかかわらず新たな試みに乗り出す企業は多い。しかし流行を追い、最新技術を取り入れ、世界的なクリエイターとコラボしたからといって成功が約束されるものではない。一方で印刷業という本分を守りながら、古くからある郷土玩具、地元のクリエイター、そしてデジタルファブリケーション機器との鮮やかなコラボレーションにより新規的な自社製品を次々と打ち出し、時流にも乗って注目を集めている企業がある。

マッチ箱に入れたこけしとクリエイティブ

ー御社では「マッチ箱マガジン」をはじめ、さまざまなオリジナル商品を展開していますが、最初の商品から紹介してもらえますか。

佐々木英明社長(以下、佐々木) 東日本大震災の後に何か印刷物で役に立てないかと思い、被災動物支援を目的に「こけし付箋紙」を製作したのが最初のきっかけです。「山側から沿岸部の被災地を助ける」という意味も込め、付箋に温泉地の伝統工芸品、こけしをあしらった付箋を作りました。鳴子系、作並系、遠刈田系、弥治郎系と宮城県の4系統のこけしをデザインするに当たって、それぞれの特徴を出すために産地を訪ねて工人から話を聞いて、歴史や系統を勉強し直しました。それが後につながっていきます。

その売り上げの一部で餌やペットシートを買って動物管理センターに送りました。震災時に保護された犬猫がセンターからいなくなるまで続けようと決めて、2〜3年続けたころに全ていなくなって感謝状を頂き、活動はいったん終了しました。

ーこけし付箋から発展したような形で「マッチ箱マガジン」が生まれました。

佐々木 仙台クリエイティブ・クラスター・コンソーシアムのクリエイティブ・プロジェクトに採択され、支援を受けてスタートしました。第1弾は「温泉編」ということで秋保、作並、鳴子、白石、遠刈田の5種類。いずれもこけしの産地ということで、イラストレーターさんにそれぞれの場所を旅してもらって、手描きのガイドマップとこけしをモチーフにした付箋を作ってもらいました。それをマッチ箱のような箱に入れて販売しました。

仙台クリエイティブ・クラスター・コンソーシアムの認定事業として開発がスタートしたマッチ箱マガジンの第1弾「温泉編」

イラストレーターさんは当然、ご当地のこけしを描いてくれるんだろうなと思ったら、皆さん非常にオリジナリティーあふれるものを描いてくれて、マップも有名な観光地ではなく意外なスポットばかりでした。正直、「えーっ」と思ったんですが、それがよかったんですね。グッドデザイン賞を頂くことができ、「第1回 新東北みやげコンテスト」の最優秀賞にも選ばれました。

ー中に入れるものを変えながら、マッチ箱マガジンはシリーズ展開していきましたね。

佐々木 第2弾は「海編」ということで、石巻、南三陸、塩竈、松島、気仙沼という沿岸のまちを取り上げました。この時の中身はプラスチック並みに強度の強いファイバー紙を使ったクリップで、イラストレーターさんが形をデザインしました。南三陸だとワカメ、モアイ、カモメなどですね。それぞれの土地のガイドマップも入っています。

各地にまつわるモチーフをクリップにした第2弾「海編」。この時点ではファイバー紙自体の色だけだった

佐々木 第3弾は「仙台時間」をテーマに、mt(カモ井加工紙が展開するカラフルな色や柄をデザインしたマスキングテープのブランド)とコラボしました。「仙台時間」という言葉は時間にルーズといったネガティブな意味合いで使われることが多いのですが、それを一つのユーモアにして5つの時間帯に分け、イラストレーターさんにお薦めの観光スポットや飲食店を描いてもらいました。例えば夜の9時〜12時だと飲みの時間ということで市内の飲み屋さんが載っていて、飲み会をイメージしたマスキングテープが入っています。

mtとコラボしたマスキングテープを入れた第3弾「仙台時間」

ーそして最新作が「ご当地こけしクリップ」ですね。

佐々木 毎年5月に白石で行われる全国こけしコンクールに当社もこけし付箋紙などを出品していたのですが、そこでいろいろなこけしの工人さんと親しくさせていただくようになりました。その中で生まれたのが「ご当地こけしクリップ」です。秋保の鈴木明さん、鳴子の岡崎斉一さん、石巻の林貴俊さんという3人の工人さんが、絵を描いたり実際にこけしを作ってくれたりしたものを基に製作しました。

秋保、鳴子、石巻のこけしをモチーフにした色付きのクリップ「ご当地こけしクリップ」

佐々木 マッチ箱マガジン第2弾で、ファイバー紙をレーザーカッターで抜いてクリップを作ったのが基になっています。それに色を付けることができないかと思い、試作を重ね、半年かけてようやく納得のいく色を出せるようになりました。

ーレーザーカッターはいつごろ導入されたんですか。

佐々木 2013年ごろです。導入する前は、東京・渋谷の「FabCafe」(レーザーカッターや3Dプリンターなどが置かれ、利用者がデジタルファブリケーションを体験・実用できるカフェ)に行って実験して、ものになるかどうかというのを繰り返し試しました。

ーまだFLAT(仙台の一般向けのデジタルファブリケーション施設)やanalog(インタビュー「ともにある」参照)が無い時ですからね。

佐々木 そうです。仙台に無かったので、東京に足を運びました。それで形になるなというのが分かったので導入を決めました。

ー思い切りましたね。

佐々木 これはいけるなと思ったんです。ファイバー紙との組み合わせでクリップができそうだと。レーザーカッターで抜くと紙に茶色いヤニが付くんですが、そのヤニを取るのに水で洗うと、いくら厚い紙でもふにゃふにゃになってしまう。ファイバー紙ならば洗っても強度が変わらず、ヤニもすぐに取れることが分かりました。

ーその辺の苦労は後ほど工場長にも聞いてみましょう。こちらで「第3回 新東北みやげコンテスト」の最優秀賞を受賞しました。自信はありましたか。

佐々木 第1次の写真審査で235点の中から40点に絞られたんですが、残ったのは一ノ蔵さんや鐘崎さんなど皆さんいい商品ばかりで、これは無理かなと思いました。上位10点に入賞すれば東急ハンズ仙台店で期間限定販売できる権利を得られることになっていたので、どのくらい売れるのか試してみたくて、10位に入れればというのが正直な気持ちでした。

 

ー売れ行きはどうでしょう。

特に石巻こけしが飛ぶように売れています。去年の全国こけしコンクールの新人紹介で林さんを知って、次の日すぐに車を飛ばして会いに行って、一緒にグッズを作りませんかと持ち掛けたんです。それから手拭いなどのグッズを作って販売していたら、去年、嵐の大野智さんがこちらの工房でこけしを作っている様子がテレビで放映されて、それがきっかけで一気にブレイクして、このクリップや手拭い、ポチ袋、付箋などのグッズまで売れるようになりました。

ーそれはファンの方が買われるんですか。

佐々木 そうですね。どこで石巻こけしやグッズが買えるかというのを嵐のファンの方がSNSなどでやり取りしているようです。

ー何が当たるか分からないものですね。

佐々木 初めは「どうにか売れるように頑張りましょうね」なんて林さんと2人で言っていたんですけど、まさかこうなるとは思わなかったです。

 

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株式会社 佐々木印刷所

1928(昭和3)年創業。地元仙台に密着した営業活動を行っている。

佐々木英明_1968年仙台市生まれ。3代目社長。
高橋雄一_1954年仙台市生まれ。2015年より工場長。

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