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佐々木印刷所(中編) 定価で物を売るために始めた挑戦

仙台の小さな印刷所が始めたチャレンジのきっかけは、価格競争にさらされている現状が続く中で芽生えた、ある思いだった。慣れない手順に初めは苦労しながらも「マッチ箱マガジン」が形になり、失敗と改良を重ねてたどり着いた「ご当地こけしクリップ」は観光客が買い求めるヒット商品になった。印刷業という枠の中でできることを試行錯誤し、新事業を売り上げの柱にまで急成長させた道のり、そして「こけし」への思いを佐々木英明社長に聞く。

定価で物を売るために始めた挑戦

ーこうした取り組みを積極的に行うようになったきっかけは何だったんですか。

佐々木 根本的なところを言うと、印刷業界は常に価格競争にさらされているので、定価で物を売ってみたいなと思ったんです。卸を挟まず販売店さんと直で取り引きをするために、飛び込み営業をしてみたいと思いました。

ーその意欲がすごいですね。

佐々木 それ自体に苦労はありませんでした。気が重いのはマップに掲載されているお店に、情報が合っているかどうか確認に行くことでした。変な営業が来たと思われて、何か売られるんじゃないか、お金を取られるんじゃないかと身構えられましたね。それで最初は苦労したんですが、第2弾、第3弾と続けるにつれて、テレビで見たとか新聞で見たよとか言ってもらえるところが増えて楽になりました。

ー普通は編集部が取材先とのやり取りやチェック機能を担いますが、その辺りも佐々木さんがやられたんですね。

佐々木 全部やりました。『描いてもいいですか』という確認だけはイラストレーターさんがやってくれますが、その後は私が引き受けます。まずお店に行って、そこで売っている物を買ってからお話しするんです。

掲載内容の確認が大変だったと振り返る佐々木社長

ーめちゃめちゃコストがかかるじゃないですか。

佐々木 それからやっと値段を確認したり、このイラストの内容でいいかというのを確認したりして。

ーしっかりされてますね。それはやはり企業の責任としてですか。

佐々木 それもありますし、物として販売された後で万が一、掲載は認めていないなどというトラブルが起きると、お店はもちろん、描いてくれた人も迷惑を被ってしまいますからね。

ーなるほど。一方で「ご当地こけしクリップ」にはマップが入っていません。何かをデザインしたクリップ自体は珍しいものではありませんが、なぜ注目されたと分析していますか。

佐々木 確かに動物の形をした針金のクリップなどいろいろありますし、ファイバー紙のクリップもあるんですが、それに色まで付けているものは少ないんですね。手間もコストもかかるので、他ではあまりやらない。マッチ箱マガジン第2弾に入れた色無しのクリップと比べても、「ご当地こけしクリップ」は圧倒的に反応が良かったですね。

発色を良くするために地に白を塗った上で実際に色を載せていくという

佐々木 例えば福島の赤べこなど、東北のご当地ものにはすぐ展開していけそうです。企業さんとのコラボでいえば、ちょうど今日(※取材日)もある酒造会社さんからクリップを作りたいというご連絡を頂いて、営業が話を聞きに行っています。

ー色を付けようと思ったのはなぜですか。

佐々木 マッチ箱マガジン第2号が完成した後に、これに色を付けたらもっと売れるんじゃないかと思ったんです。最初はTシャツのアイロンプリントのようなものをやってみて、色はよかったんですが、だんだん浮いてきて剥がれてしまったんですね。そこで、もっと熱を強くすればいいのかなと思って試したら、今度は紙が燃えちゃって(笑) とにかく試行錯誤でいろいろ試してさんざん失敗して、ある方法にたどり着きました。これだけはちょっと教えられないんですけど……。

ー言っちゃいましょうか。

佐々木 いやいや(笑) テレビ局が取材に入った時も、それをやっている部屋は撮らないでとお願いしました。本当にこれはけっこう研究したので。普通は大きい型にシルクで印刷してから型で抜くんですが、うちは抜いてから色を付けるという方法を編み出したんです。

レーザーカッターで加工後、手作業で型抜きしたもの(左)。この後に何らかの方法で色を付ける

ーそれはメリットがあるからなんですよね。

佐々木 ずれないんです。型で抜いていくとやっぱりどこかがずれるんですが、うちは絶対にずれない。それから、1個からでもサンプルが出せます。サンプル代で何万円とかではなく、じゃあ1個作ってみましょうかということができます。

ーどれくらい開発期間があったんですか。

佐々木 半年ですね。これが半年間の失敗の数々です。

努力の跡の失敗作を大切に保管している佐々木社長

ーそれにしても、もともとのご商売とレーザーカッターのような新技術、そして工人さんやクリエイターさんと、理想的なコラボが実現していると思います。基本的には印刷所でやれることだけでオリジナルの商品を開発したわけですからね。

佐々木 そうですね。中身も箱の印刷も加工も全部自分のところでやっていますし、卸をしなかったというのもよかったかなと思います。間に代理店などを挟むと値段を抑えられて売値が安くなったと思うんです。中間のところを全部やるので値段をもっと下げてください、という話もずいぶん頂くんですが、お断りしていますね。

ーそれを営業部、というか佐々木さんがお一人で。

佐々木 自分でやっています。

ー会社の業績に影響するくらいの存在にはなってきているんでしょうか。

佐々木 売り上げでいえば上位になっていますね。

ーしかも利益率は高い。ついにヒット商品にたどり着きましたね。

佐々木 そうですね(笑) でも全部つながっているんですよ。最初のこけしの付箋が無かったらここには行かなかったので。

ーこけしにずっとこだわっていらっしゃいますけど、それはどのような思いで。

佐々木 第何次ブームだといわれていますが、一時期のブームだけに終わってほしくないなと。旅行に来て何か買っていく時に、こういうものがあると思い出として持ち帰ってもらえる。そして、どの系統の誰のこけしが好き、という思いを持ちながらまた旅行してもらえればと。

ーこけしグッズを作っているところは多いですが、確かに御社は一貫して何系のこけしかを明確に打ち出していますよね。昔からこけしがお好きだったんですか?

佐々木 好きでしたね。かみさんからも「ちょっとそろそろ買うのやめたら」と言われています(笑) でもやっぱり、その土地、その土地、その工人さんごとに違いがあるのがいいんですよね。

 

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株式会社 佐々木印刷所

1928(昭和3)年創業。地元仙台に密着した営業活動を行っている。

佐々木英明_1968年仙台市生まれ。3代目社長。
高橋雄一_1954年仙台市生まれ。2015年より工場長。

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