仙台クリエイティブ・クラスター・コンソーシアム

features

佐々木印刷所(後編) 挑戦の成果が工場にもたらした変化

レーザーカッターを導入し、自社製品として「ご当地こけしクリップ」の製造を始めた佐々木印刷所。トップが新事業への意欲に燃える一方で、これまで十何年、あるいは何十年と続けてきたものとは異なる作業が加わることに対して、現場はどう思っていたのだろうか。高橋雄一工場長も交え、製作の苦労やスタッフの反応、新事業を始めたことで生まれた現場の変化について伺った。新たなチャレンジが、実は会社の中にも思わぬ効果をもたらしていた。

ーここからは高橋雄一工場長にも加わっていただきます。実際に製造工程で難しいところはどこでしょうか。

高橋 ファイバー紙は湿度などによって反ってしまうんですね。そうするとレーザーカッターにかけた時にうまく型が抜けないという苦労があります。また、レーザーで焼けた時に茶色いヤニが付くので、それを一点一点お湯でかき混ぜるように洗うんですが、そのまま乾かそうとすると反ってくるので、すぐに水気を取って重しを載せるんですね。そういった細かい作業に手が掛かります。

製作工程での苦労を話す高橋工場長。「みんなが協力してくれて何とか完成にこぎ着けました」

高橋 あとは物が小さいので皆さん手に取ってよく見るものですから、ぴったり見当(色合わせ)をすることにも神経を使います。それから、普通の印刷物の仕事は印刷して断裁して終わりですが、マッチ箱は平らな状態のものを手で組み立てるという作業が必要です。小さな物なので仕上げに気を使いますね。

佐々木 箱のことでいうと、気持ち良く箱が入るかどうかも大切ですね。緩すぎてスカッという感じになるのではなく、スッと気持ち良く入る感じに。

中箱を出し入れするときの微妙な感触の違いにこだわる

ー全て同じ寸法で作っていても、その違いは生じるんですね。

高橋 組み立てる時に、平らな状態から立体にして両面テープでくっつけるんです。その時の感覚(間隔)ですね。物が小さいので、それがコンマ数ミリでも違ってきますから。

ーこれまで長い間、クライアントがいて仕様通り作って納品するという仕事をされてきたと思うんですが、それらと違いはありますか。

高橋 まったく違いますね。何といってもこれ1個1個に値段が付いている売り物だということです。チラシやポスター、カタログというのはそれ1点1点の値段というのは明確には出ませんが、これは1個いくらと決まっている売り物ですから、本当に注意してやらなきゃないよなと。

佐々木 工場のスタッフにも、売り物なんだからねということは真剣に言っています。買った人が悲しまないようにと。

高橋 「佐々木印刷所」という名前が入っていることも大きいですね。悪いものを仕上げたら評判が落ちて、何のために社長が頑張ってこういうのをやっているのか分からなくなりますから。当たり前ですが、いい物を作るというのを工場では心掛けています。

ー自社の名前で売り出されるというのは、なかなか印刷所ではないことですよね。

高橋 そうですね。チラシを刷ったりポスターを刷ったりするだけでは、なかなか知名度というのは上がってこないですから、知名度を上げるためには必要なことなのかなと思います。

ーレーザーカッターという新しい技術が取り入れられましたが、抵抗はなかったのでしょうか。

高橋 今までやったことがないわけですから、最初はやっぱり、本当にできるのかなという気持ちがありましたね。ただ2年3年と続けてやってきて、あの時に取り掛かってよかったなと。

ー全て社内で作業されるということで負担も大きいかと思いますが、「社長がまた面倒くさいことを始めたな」と思いませんでしたか?

高橋 最初はそういうこともあったかも分かりませんけど(笑)、もう二十数種類やってきているので、だんだん慣れてきて、ある程度納期があればできるなという感触は持てるようになりました。それよりも、どんどん種類が増えて、あちこちに行って納品する社長が大変かなと思いますね。

佐々木 それでも、いつ納品しますというのがこちらから言えるのは大きいです。もし中間に入っていたら振り回されていたかもしれないです。

現場の苦労をねぎらう佐々木社長と、社長の苦労をおもんぱかる高橋工場長

ー工場長から見て、こうした自社商品にはどういう可能性があると思いますか。

高橋 うちの会社にとってみれば、これから目玉になるんじゃないかなと思っています。こけしのグッズは多くの会社さんが作っていて、お店でいろんなものが並んでいるのを見ると心配もありますが、それでもうちとしては力を入れていきたい商品です。

ー工場長というよりも商品開発や営業の方の話を聞いているようです。その辺の意識が大きく変わったということなんでしょうね。

高橋 そうですね(笑)

ー工場で働いている人たちの様子を見ていても、これまで印刷の受注業務だけをやっていた時から何か変化は感じますか。

佐々木 国家資格の印刷技能士を取りたいという人が増えて、去年、今年と1級の合格者が出ています。こうして私が表彰されている様子などを見ていてモチベーションが上がるということもあるのかもしれません。昨年新卒でデザイナー採用した社員は武蔵野美術大学卒で、うちがやっていることを見て応募してくれたそうです。そういう効果もありますね。

高橋 現場ではレーザーカッターのような今までの印刷とは違うものが入ってきたので、その辺に興味を持っている人も多いですね。

佐々木 実はこけしクリップは片面だけ印刷する予定だったんですが、社員から「なぜ裏側は印刷しないのか」「こけしをもっとリアルにするには裏面も印刷してはどうか」という意見があったんです。

ー社員さんから上がってきた案だったんですね。

佐々木 そうです。工人はこけしの裏面まで見るんじゃないかと言われて。その分コストはかかるんですが、裏面までやっている商品はないので、おかげでより独自性のあるものになりました。

ー最後に、この後の展開についても少し教えてもらえますか。

佐々木 こけしクリップは宮城だと遠刈田と白石が残っているので、全部制覇したいなと思っています。それから、蔵王の火山活動で周辺の観光や宿泊に風評被害がありましたが、お客さんが戻ってくるように何かできないかと峩々温泉さんからオファーを頂きまして、商品を開発しました。そんなふうに、災害や風評被害などで観光的に困っているところをこうした商品で少しでも助けられればいいなと考えています。

火山活動の影響で風評被害を受けている蔵王の観光を盛り上げようと製作したマッチ箱マガジン番外編「峩々温泉」

取材:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

前編 > 中編 > 後編

株式会社 佐々木印刷所

1928(昭和3)年創業。地元仙台に密着した営業活動を行っている。

佐々木英明_1968年仙台市生まれ。3代目社長。
高橋雄一1954年仙台市生まれ。2015年より工場長。

SEARCH

SITEMAP