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藤崎未来創造ラボ(中編)未来の百貨店が提案すべき、新たな豊かさを模索して

その経歴を通じてさまざまな角度から、激しい競争にさらされている百貨店の現状を見つめてきた千葉氏。老舗といえども、「このままでは駄目だ」。そんな危機感もあり、ラボでは顧客に向けた「新しい体験価値」、行政や地元企業との連携による「地域価値」の共創、社内における「生産性」の向上の3つを軸に実験を繰り返しながら、「人が買い物をしなくなる」とまでいわれる未来に地方百貨店が提案できる豊かさとは何か、という難題に向き合っている。

未来の百貨店が提案すべき、新たな豊かさを模索して

−老舗百貨店の中では異質にも見える「未来創造ラボ」ですが、まずはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか。

千葉 「イノベーションのジレンマ」で語られるように、顧客第一主義を掲げてお客さまのニーズに合わせ続ける一方で、新しいお客さまや世の中の変化を見落としがちな部分がどの企業にもあると思います。例えばカメラメーカーでしたら、携帯電話にカメラが付いたことは知っていても、ユーザーが求める理想のカメラを追求し続けてきました。ところがiPhoneが出てくると、カメラの主力マーケットはあっという間にスマホに移ってしまっていました。

地方百貨店もそれに近いことが起き得るのではないかという危機感を感じていました。「このままでは駄目です」と訴えていたところ、タイミングよく抜擢(ばってき)していただいたのが、藤崎未来創造ラボです。少人数でゲリラ的に実験を行うような部署で、そのリーダーとして「実験」を進めてきました。

藤崎未来創造ラボの根本雄二さん(左)、石澤洋子さん(右)(2019年時点)

−なぜ危機感を持つことができたのでしょう。

千葉 都内の百貨店にいたこともあり、自分たちが過当競争の中にあることを実感していました。百貨店は地域外からモノや情報を仕入れて地域内に販売するというモデルで、コモディティー化が著しく進み、区画や情報の速さの競争が激化しています。

そのような状況の中では、競争ではなく「共創」が独自性につながるのではないかという考えの下、ではどんな共創ができるのか、それが地域でどんな化学反応を起こすのかをラボの中で検討しています。

−具体的にはどのような取り組みを行ってきましたか。

千葉 「体験価値」「地域価値」「生産性」の3つの軸で進めてきました。まず「体験価値」ですが、これまでは、お客さまが商品を購入するまでには、その商品が良いという情報をテレビやラジオ、口コミで聞いて、店頭で探して、手に取って、接客を受けて、購入を決めるという流れがありました。マーケティング用語でカスタマージャーニーと言いますが、それが今はSNSで見て、ECで検索して、SNSで評価を調べて、ECで購入する。この全てがネット上で事足ります。もちろんこれは当然の流れですし、実際利便性においてECに勝るものはありません。

それはもう認めた上で、じゃあ私たちに何ができるか。もしも藤崎という百貨店、そのリアル店舗がなくなったときに、お客さまは何に困るだろうかと考えると、お買い物自体はもしかしたら困らないかもしれない。ここで必要なのは、やはり、実際手に取って触れられるとか信用できる情報を直接聞くことができるというような、ここでしか得られない体験価値を明確化して育てることが大事で、そのための取り組みを行っています。

仙台市の「X-TECH」(クロステック=産業とITの掛け合わせで新事業やイノベーションを生み出す取り組み)に参画したのもその一環で、デジタルとリアル店舗をシームレスでつなぐようなアクセラレーターのオープンイノベーションに取り組みました。そのほか、大手製造メーカーのラボチームや、イノベーションにチャレンジしている企業の担当者さま、地域のベンチャー企業さまなど。今も多くのご縁をいただき、共創の可能性を模索しています。そうしたお買い物の新しい体験価値を追求する動きが一つです。

X-TECH東京説明会でのプレゼンテーションの様子(写真提供=藤崎)

−2つ目の地域価値とは。

千葉 「地域価値」は同質化を打破し独自性をつくることと、新しいサプライチェーン(供給網)をつくることの、2つの目的があります。モノを仕入れて抱え込んで、地域内のお客さまへ提供するというこれまでの地方百貨店のスキームから、地元事業者さまとのネットワークを生かしてオリジナルの企画や商品をつくり出すコンテンツメーカーになることを目指しています。私たちの強みは、場があり、お客さまとの最終接点という出口から考えられることです。その強みをフル活用して、新しいコンテンツを作って地域外に売っていきたいと思っています。

今までは地域外のものを持ってきて売るので、お金が地域の中から外へ流れていく動きでした。そうではなく、地元事業者の皆さまやクリエイターの方と一緒にものづくりをして、百貨店という場を使って認知を高めてから外に持っていけば、外から中へお金を持ってくることにつながります。そういった流れをつくることができるのは、もともと地域商流のプラットフォームとしてある私たちではないか。そのような思いから、その学びと実験の場として、仙台市と連携協定を結んで仙台エリアの魅力を発信するプロジェクト「都の杜・仙台」をやらせていただいています

2019年5月に藤崎本館1階で展開した「都の杜・仙台」ポップアップストア(写真提供=藤崎)

3つ目の「生産性」は対内的なことで、百貨店は特に生産性が低い業界だといわれています。今後の労働力の減少、そして、ラボとして新しい取り組みを進めていく中で、旧来の人が行う仕事やリソースを新しい領域に振り向けていく必要性を痛感していました。そこで社内の業務の見直しと環境の改善を図りました。

その一例が、百貨店では珍しいRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション=ロボットによる業務自動化)の導入です。お中元やお歳暮などの準備作業受注はこれまでパソコンで手入力して、それをまた別のファイルで管理してという形で行っていました。それが全て自動で行われるような仕組みを導入しました。ほかにもフリーアドレスの導入によるオフィス環境の改善や、さまざまな社内文書のデジタル化といったことも含め、内側の改革を進めています。

−未来に向けた実験を、積極的に外部と連携して行っているラボなんですね。

千葉 そうですね。自社の強みや弱みは明確ですから。アンテナを立てて、共感いただける方と一緒に実験することがスピードを生みます。特に2030年くらいの長期的な仙台のマーケット視点に立って今を見たときに、これから必要なものは何かを考えています。どうしても3年や5年といった短いスパンで物事を検討しがちですが、もう少し先を見て、人口減などの課題に対して自分たちの強みを生かして何ができるか考え、実験する。これだけ世の中の流れが速いとなかなか予測を立てるのは難しいですが、それでも仮説を立ててやっています。

それを実現するには、一から十まで自社ではなく、オープンイノベーションのように自分たちの強みと他社の強みをどんどん掛け合わせていくことが大事です。そうすることで、お客さまが求めていることにもっと近づいていける。しかも、スピード感を持って。こういう時代だからこそ、スピード感は非常に重要です。当たり前のことですが、老舗にとっては大きな一歩だと思っています。

RPA導入後の運用イメージ(NECホームページ「NEC Software Robot Solution導入事例」より)

−何カ年計画で進めている間にもまたトレンドは変わってしまいますからね。

千葉 ECなどは本当にそうで、今この瞬間も発達しています。最近、「2025年、人は『買い物』をしなくなる」(望月智之著、クロスメディア・パブリッシング発行)という本を読みました。2025年といえばわずか5年後ですが、あり得なくもないなと。

そうなったとき、私たちは何を象徴とすればよいのかを本当によく考えています。百貨店は昔は豊かさの象徴で、お客さまは流行のモノと情報を求めに来られていました。しかし、今はモノも情報も、お客さまがすでに豊かになっているので、私たちが次にお客さまに提案する豊かさは何なのかと。

−難題ですね。

千葉 とてもやりがいのある課題です。考え続け、仮説を立てて、実験を繰り返していくしかありません。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社藤崎

〒980-0811 宮城県仙台市青葉区一番町3-2-17

TEL:022-261-5111(本店代表)

創業1819(文政2)年。事業内容は百貨店業(店舗販売、外商セールスによる外販)。

事業所:本社/仙台市、営業店/秋田、盛岡、一関、山形、原町、福島、気仙沼、佐沼、古川、石巻、塩釜、船岡、白石、庄内、サテライト店/泉中央、長町、六丁の目、石巻

藤崎関連企業:株式会社フジスタイリング(紳士服縫製業)、藤装建株式会社(内装工事)、株式会社藤崎エージェンシー(藤崎友の会、保険代理店)、株式会社藤崎ビジネスサービス(人材派遣・紹介)、株式会社藤崎商会(不動産業)

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