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JDSound(後編) メード・イン・宮城でクラウドファンディングの駆け込み寺に

GODJ Plusがクラウドファンディングで過去最高額を達成するほどの支援を得られたことと、その製造工場が被災地・石巻にあることを切り離して考えることはできない。復興のストーリーに結び付けるための演出的選択とも誤解されかねないが、実際には中国工場での生産経験も踏まえた上での経営的な判断だった。その結果切り開くことができた宮城・東北のものづくりの力で、かつてのあのチップのように、行き場を失った世界中のアイデアの芽を花開かせる。

メード・イン・宮城でクラウドファンディングの駆け込み寺に

—宮城県内の工場で製造されているのも特徴ですが、その経緯は。

宮崎 幸運だったのは、たまたま石巻にオーディオ製品の組み立て実績がある工場があったということですよね。ヤグチ電子工業さんはソニーのウォークマンを作っていた工場で、こういう製品は非常に得意。草案の時点で段ボールを貼り合わせたモックを持っていって、いろいろとアドバイスを頂き、最終的に石巻で雇用を生み出すことで少しでも恩返しできたというのは、うれしいことです。

かつてソニーのオーディオ製品の製造を担っていた石巻のヤグチ電子工業

—何がきっかけでヤグチ電子工業とつながったんでしょう。

宮崎 仙台市の品田誠司さん(総務局、前経済局産業振興課課長)からご紹介いただいて、その翌々日にはヤグチ電子工業の取締役の方とお会いして、翌週には石巻に行って社長さんとお話ししてと、スピーディーに進みました。これはぜひ書いていただきたいんですが、日本一を取ることになるまでのストーリーを描けたのは、まさに品田さんのおかげなんです。

—そうでしたか。必ず書きますね(笑) ただ、中国の工場で作るのと比べるとコストは高くなりますよね。

宮崎 本当は黙っておきたいんですが…安いですね。中国の工賃も最近上がってきているので、数字だけ見てもそんなに変わりませんし、こと最終的な組み立てや検品に関しては、中国で作って持ってきて日本で再検品する手間を考えると石巻の方がトータルでは安いと思います。何より精度が高い。GODJ Plusでもある程度市場不良が出てしまったんですが、ほとんどが中国の工場が原因のもので、石巻の工場が原因の不良は生産した1300台のうち1台あったかないか。驚くほどの精度で、細やかな動きもしてくださるので、非常に助けられました。

メインのPCB(プリント基板)は中国の深センで作っていたのですが、先ほど申し上げた初期不良のほとんどの原因はこのPCBです。1枚1万円以上するので、100枚不良が出ると100万円失ってしまう。われわれにとっては金の延べ棒ですからね、1枚1枚手作業で一生懸命直しましたよ。

基板に関して不良が一定の確率で出るのはしょうがないんです。ただ、不良が出たときに深センまで問い詰めに行くのは大変ですよね。行ったところで「いやー、うちのせいじゃないんじゃないんですか」という感じのやり取りになるのは想像がつきます。言葉の壁と距離の壁があって、そこでもめている時間がもったいない。ですからいま、PCBは仙台市泉区の工業団地で作り、基板に部品を実装する工程を田尻(大崎市)でやって、出来上がったものを石巻に送って組み立ててと、宮城県内の車で1時間程度で行ける距離のところにお願いしながら、メード・イン・ジャパンの比率を高めようとしています。

ヤグチ電子工業により組み立ての精度は高まったが、中国で生産するPCBの不良が課題だった

—それでもコスト的に変わらないんですか?

製造コストはいい勝負なんですが、部品がネックですね。部品を実装するには、上に乗っているコネクターやスライダーなどの部品を自分たちで調達して工場に送らないといけないんですが、それを国内で買うと高くつきます。中国だと10分の1程度の価格で買えるものもあるので、トータルして中国と比べると、まだトントンにはならないかなというところ。それでも、メード・イン・ジャパンへのこだわりや、不良が発生したときのわれわれの手間やフィーを考えると、1.5倍程度までは許容範囲かなと思っています。そのくらいのコスト差であれば、日本で進めた方が精神的にもいいです。

—宮城での製造比率を高めると同時に、今後はどのような展開を考えていらっしゃいますか。

GODJ Plusが量産体制に入ってから、「KDJ-ONE」というポータブルの作曲ツールの開発に携わりました。このプロジェクトは日本の企業が2011年ごろに立ち上げて、米国の「Kickstarter(キックスターター)」で資金を集めることに成功したんですが、頓挫してしまったんです。当時大変話題になって期待されていただけに、クラウドファンディングの代表的な失敗事例といわれるようになりました。

ものづくり系のクラウドファンディングで失敗事例が増えていくことは全体の信用低下につながりますし、われわれのノウハウとネットワークを使えば製品化できるのではないかと思っていたんです。そんな折、向こうから量産まで持っていける会社を探しているということでお声掛けいただき、再設計を施して製品化にこぎ着けました。

KDJ-ONEのような事例を重ねていくことで、特にオーディオ関係の製品で、うちがクラウドファンディングの駆け込み寺のような存在になれないかと考えています。3Dプリンターでデモ機を作ることはできても、実際に量産化するときは設計し直す必要があり、そのハードルの高さをご存じない方が多い。われわれにはGODJ、GODJ Plusで培ったノウハウがありますので、ハードルを越えるお手伝いをすることを事業の一つの柱にできればと思っています。

自社製品を含めJDSoundが開発に携わった機器。左下がKDJ-ONE

—頓挫しかけているプロジェクトを形にする事業、というのは独自性がありますね。

宮崎 再設計するというのは平たく言えば駄目出しの連続で、それをマイルドに、オブラートに包んで話しながらも修正を重ねて完成に持っていくことになります。自分たちで一から製品を作るとトライ&エラーのたびに何百万というお金がかかってしまいますが、他社の製品の場合は比較的少ないリスクで大きなノウハウを得られますから、それを繰り返すことで企業としても成長できるんじゃないかと思います。

—それでアイデアを持っている人を救うこともできますし、県内の生産ラインに仕事を供給することもできます。

宮崎 そうです。元のアイデアはそのまま生かして、われわれが量産に向けた回路や筐体(きょうたい)の設計変更を行って、最後は石巻の工場で組み立てる。世界にはお金は集まったけれどうまくいっていないというプロジェクトが数多くあると思いますので、そのうちの数%でも持ってくることができれば、仙台というところでものづくりを行っていて、石巻というところから出荷されているというのが世界に広まり、宮城・東北のものづくりにとってもチャンスが膨らむのではないかと考えています。

ものづくりの拠点として仙台や石巻、宮城の名が世界各地に広がっていく

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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株式会社JDSound

2012年に設立された宮城県仙台市に本社を置くベンチャー企業。半導体設計とデジタルオーディオの分野で15年以上の経験を持ち、遊戯機やカラオケ機器といった業務用製品からギターエフェクタやハイレゾプレイヤーなどのコンシューマー向け製品まで幅広い実績がある。企業理念は「人生の宝物になる製品を作る」。メード・イン・ジャパンの高品質オーディオ製品を全世界に発信している。

Web:http://www.jdsound.co.jp/

ポータブルスピーカー「OVO」:https://greenfunding.jp/lab/projects/2095

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