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モビーディック(前編) 東北の冷たい海に耐えるウエットスーツを作り続けて

石巻に工場を構え、業務用やレジャー用のウエットスーツ、ドライスーツを製造販売するモビーディック。ウエットスーツの国内シェア2割を握る企業が県内にあることはあまり地元で知られていないが、マリンレジャーの業界やユーザーにとって石巻は「ウエットスーツの町」だ。東北初のダイビングショップを前身に現在のシェアを確立するまでの道のりとその苦労を、同社取締役部長の保田智章さん、製造事業部長の木村秀一さんに伺う。

東北の冷たい海に耐えるウエットスーツを作り続けて

—まずは現在、御社で取り扱っているブランドについて教えてください。

保田智章さん(以下、保田) 主にマリンスポーツ用ウエットスーツやドライスーツの製造販売を行っておりまして、ダイビング・水上バイク・ヨット、サーフィン用の「MOBBY’S」というオリジナルブランドを展開しています。ほかに、漁師さんや警察、消防、海上保安庁、自衛隊など業務用ダイビングのブランド「X-MOBBY’S」、フィッシング用のウエーダーやアクセサリーを展開する「Rearth」、そして「O’NEILL」のウエットスーツに関して国内製造販売卸のライセンスを持っています。

—創業時からスエットスーツの製造を行っていたんでしょうか。

保田 もともとは先代の社長が東北で初めてダイビングショップを開業して、最初はウエットスーツを漁師さん向けに仕入れて売っていました。サイズが合わなかったり、お客さんの細かい要求があったりして、それに応えて直したり調整したりしていたんですが、らちが明かなくなって、一から作った方がいいということになったようです。

木村秀一さん(以下、木村) 地域柄もあるんですね。東北は水温が低いので、体に合わないと快適な作業ができないわけです。そういったお客さまの不満や不都合のある部分を解決しようと、サイズを測ってオーダーで品物を提供するようになっていきました。それが、マリンレジャー用ウエットスーツにつながる原点ですね。

モビーディック取締役部長の保田智章さん(右)と製造事業部部長の木村秀一さん

—現在の規模までマリンレジャー用が拡大した経緯は。

木村 最も大きなターニングポイントは、現社長の保田守が「アクアローブ」という滑り止め加工を施したマリン用のグローブを作って、アメリカをはじめ海外でセールスしたところ、非常に反響が高く、たくさん仕事を頂いたことです。そこから、マリンレジャー用のウエットスーツにも本格的に参入していきました。

—そのアクアローブはどのように生まれたんでしょう。

木村 やはり地元の漁師さんの声や要望に応えて生まれたものでした。当時はそういうものがなかったんですね。

保田 そこにちょうどウインドサーフィンのブームが訪れて、ウインドサーフィン用のドライスーツを1983年に当社が初めて市場投入しました。日本が経済成長期でレジャーの幅が広がるのに伴って、マリンスポーツという概念が広まった時だったんです。

—その後会社が成長していく中で苦労されたことは。

木村 われわれの商品はご注文を頂いてから1着1着作るので、その際にサイズも一つ一つ測っていただいて物を作っていくので、そこに苦労がありました。当初は体にフィットするものが供給できないこともあって、体に合わせるパターンを作る技術を社内で構築することに関しては、相当な時間と労力をかけて、今でも絶えずやっています。

モビーディック本社工場の製造現場。体にフィットする製品を作るノウハウが蓄積されている

—採寸してもうまくいかないものなんですか。

木村 体の部位にぴったり合っていないといいウエットスーツになりませんが、サイズさえ合っていればいいわけではなく、動かす場所に動かせるだけのゆとりがないといけません。そのゆとりがないとウエットスーツに無理な動きが生じて、商品が早く傷みます。適切なところに適切なゆとりを持たせて、なおかつ体にフィットして、できるだけ水の出入りが少ないものを作らないといけないんですね。特に水温が低い東北の海域では、その精度を非常に高いレベルで要求されるので、そういった部分では地元の漁師さんを含め、ユーザーの方々に成長を促してもらいました。

保田 日本市場はウエットスーツに関してもガラパゴスなんです。海外の市場は、多少合わなかったり動きづらかったりしてもあまり気にしないのか、S、M、Lとレディーメードが基本になっているんですね。ところが日本の市場は8〜9割がオーダーメードで、当社で作っているものも9割ほどがオーダー品。フルオーダーですと採寸箇所は35項目にも及び、採寸の手間がかかることもあり、レディーメードに比べて価格帯が全然違います。それでも国内のユーザーさまは、自分に合ったもの、自分専用のものを求めてオーダー品を選ばれますね。

—アパレルメーカーやスポーツメーカーが競合になることはなかったんでしょうか。

木村 過去には大手スポーツメーカーさんが参入しようとされたことがありました。しかし、まずウエットスーツ用のパターンを作るためのノウハウや技術を持っているところが非常に少なくて、なかなか参入しづらい。今だとアパレルでも体にフィットするような衣服はありますが、当時はまだ少なく、洋服といえばある程度余裕があるものなので、大ざっぱなパターンだったんです。ところがわれわれの場合は創業当時から体に合わせるということに特化したノウハウを構築していました。うちだけではなく、ウエットスーツ業界各社に特殊なノウハウがあったんです。

同社が国内製造販売卸のライセンスを持つO'NEILLのウエットスーツ。フルオーダーにも対応する

洋服作りのノウハウが一切通用せず、パタンナーの裾野が広がらなかったということもあります。通常、時間をかけて良いパターンを作ると良いパタンナーなんですが、ほぼ全てオーダーで作るわれわれの場合はそんなことを言っていられません。パターンを短時間で、しかもその人に合ったものをミスなく作り続けないといけないので、例えば1着当たり15分でパターンを作り続けられるように、パターンを作るノウハウを社内でデジタル化しようと、恐らくウエットスーツ業界で最初にパターンをCAD化しました。

—それほど効率を高めていかないといけないんですね。

木村 計画生産ができないんです。普通の既製品を扱っているメーカーですと、商品企画を立てて、それに対して展示会や受注会を開いてご注文を頂いて生産を始めてと、計画的に進められますよね。われわれの場合は新商品を作って、商品カタログを用意して、各取引先さまにセールスをかけるわけですけれども、その時点では注文を頂けないんです。買っていただくお客さまがお店に来て、指名買いをしていただいて、寸法を測っていただいて初めて注文となる。利益追求型の企業ではやっていけない、特殊なマーケットなんです。

保田 カタログを見ていただくと分かるんですが、いろいろなモデルがあって、パターンやエントリー(着脱する部分)の違いがあって、カラーも選べる。サイズも色も配列も違う世界に1着のものなので、「作りだめ」ができない。それに対応できる材料の在庫を常時持たなければいけませんが、必ず注文いただけて一定期間で消化されるという保証はどこにもない。在庫リスクが非常に大きいですよね。

さまざまなパターンの組み合わせによるオーダーメード製品を最短6日(ウエットスーツ)で出荷する

ウエットスーツメーカーというのは国内でもけっこうあるんですが、ダイビング用だけ、サーフィン用だけというところがほとんどで、当社のようにダイビングからサーフィンまで総合メーカーでやっているところはほとんどないんです。ダイビングとサーフィンでは動きが違うのでパターンも変わってきますし、素材も同じように見えますが、ダイビングとサーフィンでは求められる特性が違う。一見同じ色の素材が2つあっても実はゴムの質が違うので、材料が共有できないんです。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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株式会社モビーディック

1975年4月設立。各種マリンスポーツ用ウエットスーツ、ドライスーツの製造販売を手掛ける。主要営業ブランドは「MOBBY’S」(SCUBA DIVING/PWC/YACHT)、「X-MOBBY’S」(職業用DIVING)、「O’NEILL」(SURFING/WIND SURFING/WAKE BOARDING)、「Rearth」(FISHING)。

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