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モビーディック(中編) 究極の理想、人間の皮膚に近づけるための挑戦

一人一人の体にフィットすることはもちろん、作業したりレジャーを楽しんだりする上で適切に機能するウエットスーツを作り続けてきたモビーディック。ユーザーの要求と社員の追求心でトライ&エラーを重ね蓄積されたノウハウは、人体に精通した研究者が導き出す答えと驚くほど一致していた。その高い技術力に加え最新技術も積極的に採り入れ、業界内で独自の地位を確立。それでもなお、さらなる進化への飽くなき挑戦は続く。

究極の理想、人間の皮膚に近づけるための挑戦

—オーダーを受けて、採寸したデータが届いてから具体的にはどういう作業のステップがあるんでしょうか。

木村 まずご注文を頂いたら受注処理をして生産計画を作り、生産計画に基づいてパターンを作り、裁断します。洋服だと裁断をしたらすぐ縫製になりますが、われわれの場合はその前に接着剤などを使って貼り合わせるという工程を経て縫製します。あとは製品検査をして、出荷してお客さまの元へという流れですね。

—1着が形になるまではどれくらいかかるんですか。

保田 ダイビング用のウエットスーツで6日、ドライスーツだと最後の工程に水槽検査が入りますので、プラス2日かかります。ドライスーツは完全に水が入らないという前提のスーツなので、エントリーには宇宙服などに使われるような特殊な防水ファスナーを装着して、出来上がった時に手首と首の部分をふさいで、中に空気を入れて、検査用の水槽に沈めて漏れがないかを検査して合格したものを出荷します。

社屋裏にある検査用の水槽。社員が製品を着用して数時間水に漬かることもある

—デザイナーさんが関わるのはどういうところでしょうか。

木村 模様や色、パネル配置といったパターンを考えるのはもちろんですが、うちは85人ほどしかいない会社なので、仕事の範囲はより広くなります。デザインも考え、仕様書も作り、海外の協力工場で作る場合には、その折衝まで行っています。

当社ではウエットスーツはマリンスポーツで使うための「機能服」だという考え方をしているので、基本的な構造線はデザイナーよりもパタンナーの考えに基づきます。必ず制限しないといけない構造というのがあって、プラスアルファのところをデザイナーが担う。アパレルだとデザイナーが上でパタンナーが下という感じもありますが、うちは両方が協働して作っていくんですね。

保田 パターンについて重要な点では、当社独自の技術として「ACT(Anatomical Cutting Technology)」、解剖学動態追従カットというものがあります。保温性と機動性を両立させるに当たって、人間の皮膚以上に理想的なものはないんじゃないかということに至り、解剖学の教授の方と2年ほど共同研究を行いました。

長年の経験を解剖学的な理論で裏付けした同社独自技術「ACT」

木村 もちろんパターンの技術自体はもともとあったんですが、みんなたたき上げでやってきて、このやり方が本当に合っているのかという話になりました。だったら先生の教えを受けて、科学的に解明してみようということでやったんですが…それがほぼ合っていたんです。

—それは理想的な結果ですね。

木村 その先生は人体を解剖して、それに基づいてパターンを作るというパタンナーでもある方で、パターンの理論と解剖を関連付けしていったんですね。一方でわれわれは解剖するわけにはいかないので、漁師さんやお客さんにここが動きにくいとか、いろいろなことを聞いて、言われたことを基に年中型紙を切りながら、独学で、実地でやってきたんですが、その2つがほぼ合っていた。答え合わせをしているような感覚でしたね。

ただし、同じゴールに至るのでも先生の理論には説得力があり、その表現力が非常に大事なんだということを教わりました。それから、型紙の技術というのは、ずっとやり続けていかないと進化していかないというのも先生に学びました。先生は当時80歳を超えていましたが、医学的な見地からパターンについて考え続けていた。これは一生懸けられるような技術なんだなと思いましたね。当社としても、社内でその後も研究を続けていて、人体の分析のために3Dスキャナーを導入して3次元のノウハウを構築しようという取り組みもあります。

保田 ウエットスーツ、マリンスポーツウエアはあくまでニッチな分野なので、最終製品のメーカーは多々あるんですが、材料をたどっていくと供給先は限られるんです。そこから供給される同じもので何かを作っても、差別化は難しい。それならばいろんなところに引き出しを持っていた方がいいだろうということで、全く違う角度で、ほかのウエットスーツメーカーさんが取り組まないようなことでも試してみて、採り入れられそうなものがあれば採り入れています。

パターンのCAD化や3次元のノウハウ構築など、意欲的に技術を導入する

—普段の業務がある中で新しいことを採り入れていくというのは大変ですね。

木村 人の体の分析に関しては普段の仕事にも直結していて、日々大なり小なり発生する問題点を改善するノウハウにつながっていくので、みんな積極的に参加してくれています。3Dスキャナーを使った研究では私が男性用の被験者になったんですが、女性用は社員が協力してくれました。普通は嫌がられてしまって、お金を出して被験者を集めることもあると思うんですが、皆さん積極的に対応してくれるのは恵まれた環境ですね。

—皆さん、あとちょっとを突き詰めたいという意欲が高いんでしょうか。

木村 社員だけでなくお客さまもそうなんですよね。5ミリ合わないとか3ミリ合わないとか言ってくれるんですよ。

保田 ユーザーの要求は日々高くなって、それに応えるため、期待に添うようにするためには、ここで満足ということがありませんね。

木村 ただ厄介なのは、われわれは寸法を頂ければその寸法に見合ったものを精度の高い状態で作ることはできるんですが、寸法が合ってないと、どこまで行っても合わないんです。ですから、採寸する方とわれわれは一蓮托生(いちれんたくしょう)で、どちらのノウハウもスキルも高くないといけない。日本のマーケットは販売店さんもプロショップさんも、サイズオーダーということに関して長い時間をかけて築き上げてきたんです。

不正確な採寸データに苦労した経験を話す木村さん

30年ほど前はひどかったんですよ。身長170センチ、総丈160センチという数字が届いて、それじゃ頭は10センチしかないのかと(笑) そんな数値が来ることもありました。それはわれわれ作り手側も困るし、実際にお客さまと対面で販売しているお店はもっと困ったはず。そうしたことから、採寸の重要性という部分をお互いに意識してこのマーケットが作られていったんですね。まさに二人三脚で、販売店さまとわれわれメーカーが一緒に活動した結果、サイズオーダーの文化というものが根付いて、世界でも特殊なマーケットになったんだと思います。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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株式会社モビーディック

1975年4月設立。各種マリンスポーツ用ウエットスーツ、ドライスーツの製造販売を手掛ける。主要営業ブランドは「MOBBY’S」(SCUBA DIVING/PWC/YACHT)、「X-MOBBY’S」(職業用DIVING)、「O’NEILL」(SURFING/WIND SURFING/WAKE BOARDING)、「Rearth」(FISHING)。

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