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ヴィ・クルー(中編)社員の成長と企画力で東北トップに そして見えた新たな目標

苦しい時期を乗り切り車体整備の現場で指揮を執ることになった佐藤社長が目にしたのは、ドア一枚も満足に仕上げられず意気消沈した社員たちの姿だった。「このままでは駄目だ」と、東北のトップシェアを目指すことを宣言し、従業員の意識を改革。業界初の仕組みを編み出し、規制緩和の波にも乗って、ついに目標を達成する。しかし東日本大震災によって仕事量が激減。そこで事業転換に迫られた佐藤社長の背中を押したのは、社員たちだった。

社員の成長と企画力で東北トップに そして見えた新たな目標

−工場を見るようになったのはいつからですか。

佐藤 その3年間を何とか乗り越えて、4年目に車体整備の板金塗装を見るようになりました。東日本最大のボディー工場と言っているのに当時は1年間に1台しかバスが入ってこなくて、自動車メーカーの下請けで乗用車の板金を主にやっていたんですね。ところがその仕事が下手で、ドア一枚もまともに塗れないような状態。納車すると、なんだこの仕上がりはと𠮟られるほどでした。

これでは駄目だと、「3年後に東北のトップシェアを目指す」と宣言しました。当時の社員は自信を失っていたので、突然何を言い始めたのかという顔をしていましたけど、下ばかり向いてもしょうがないんだとハッパを掛けました。

下手な鉄砲も数打ちゃ当たると言いますが、まさにその通りで、数を重ねていくうちにだんだんとみんなうまくなるんですよ。もちろんお客さんのおかげでもありますが、今では「塗装のヴィ・クルーだね」と言われるほどに成長しました。

丁寧な手つきで塗装を行う社員

−現在ではバスを中心に取り扱っていますが、バスの受注が増えたのは何かきっかけがあったんでしょうか。

佐藤 当時、バスのデザインは直線が主体でした。仙台市営バスでしたら緑ベースに青のラインですよね。でも、これからは間違いなくおしゃれな曲線を使ったバスが走る時代がくる。それを先駆けてやろうと思いました。ところが現場に聞くと、マスキングという作業に手間が非常にかかり、割も合わないから業界のどこもやらないんだと。それで逆に、チャンス到来と思ったんです。みんながやらないんだったら、やれるようになろうと。

何かうまい方法はないかと考えていたある日、仙台に買い物に行って、デパートでバーゲンの垂れ幕を目にします。これってバスより長いよなと。垂れ幕を作っている会社に聞いて、そのシステムを使えば、バスの型紙も作れるんじゃないかと思ったんです。

それが業界初の現物寸法というものになります。パソコンで実際の縮尺でデザインして、それで出力すればバスと同じサイズの型紙が作れる。その仕組みをつくっただけなんですが、バス業界で、あそこに頼むとどんなバスでもデザインしてくれるらしいとうわさが広がっていきました。

−デザインはどのように行っていたんですか。

佐藤 実は私、美術は赤点なんです。でも、会社がつぶれそうな状況でしたから、そんなことは口が裂けても言えない。それで、社長の好きな色は何ですかとか、どんなことを大事に経営していますかとか、そういう話を基にデザインを作っていきました。番組を作っていた経験で、企画立案は得意なわけですよね。絵心で描くんじゃなくて、企画型でバスのデザインをし始めました。

それから1年もたたないうちにバス業界の規制緩和があり、新規参入が一気に増えます。そこで爆発的に広がっていきました。信じられないほどのビッグウエーブで、まさに、お客さんがお客さんを呼ぶ状況。うちの会社のバスはかっこいいだろうと見せて、知り合いの会社の社長にも教えておいたからと、何人もお客さんを紹介してくれました。あれもこれもそれも、うちで作りましたという時期で、本当に東北のトップシェアになっていました。

工場の前にずらりと並ぶ東北各社のバス

−すごい。

佐藤 会社がつぶれそうだから、やるしかなかったんですけどね。人間、退路を断つと何とかなるものです。それでバスが塗装で入っている間に外回りも直したり内装を作ったりと、業務を広げていきました。そうすると、うちの工場に預ければ一通り全部できてしまうということで、お客さんに大変重宝がられるようになっていきます。

昔の業界は分業制で、板金だけをする会社や塗装だけをする会社に分かれていました。でもうちは毎年新卒採用を続けていたので、採ったからには仕事を用意しないといけないと、どんどん内製化を進めました。そのおかげで、周りの仕事の状況に振り回されずに自分たちで工程を組めるようになっていたんです。

私がいくら企画力が強くても、それをやり切る人がいないと企画だけで終わってしまいます。こういうものを作ろうといって、それを形にできる実行力と、それを補完する総合力がうちの会社の強みになっていると思います。木工も鉄工も、デザインも塗装も全部できる。それで、車体製造にシフトできたんです。

塗装、板金、電装、クリーニングなどバスに関わるあらゆるサービス一手に引き受ける

−車体製造を始めたきっかけは。

佐藤 東日本大震災です。その前から、いずれやりたいとは社員たちに話していたんですが、リスクもあるなと思っていて、なかなか移行できずにいました。ところが震災で仕事の7割以上がなくなった時に、幹部を中心とした社員たちが「被災地にこんな車があったらいいよね」というものをイメージして絵を描いてきた。何をしているのかと聞いたら、「ずっと社長は車体製造をやると言ってきたじゃないですか」と。仕事がないんだから、いい機会だからシフトチェンジしようと、社員に背中を押されたんです。

その後、電気が通ってすぐに、凸版印刷の方から被災地に本を贈りたいというメールが届いたので、すぐ東京に行きました。お金や食料や衣料や布団など、そういう支援の形もあるけど、本は心の栄養だと。それを子どもたちや被災地に届けるために、移動図書館を一緒にやりませんかと提案しました。担当の方も気持ちをくんでくれて、話がトップまで駆け上がって了承を得られました。

それで作ったのが「ブックワゴン」です。単純に本を積んだバスではなく、中に読み聞かせできるスペースがあって、お母さんと子どもが安心できる空間で本を一緒に読む車です。うちが車体を作るならば、単純に用途に応じたものを作るのではなく、企画提案が大事だとあらためて感じました。

−構成作家の経験が生きますね。

佐藤 同じなんですよね。そのアウトプットが番組なのか、製品なのか、移動体なのかの違いだけ。車体製造でも、移動販売車やキッチンカー、学習室バスなど、いろいろな車を企画提案型で作っていきました。

2018年にはボンネットバスも作りました。会津市内を周遊するボンネットバスが老朽化して車両を置き換えることになったんですが、もうボンネットバスを作っているところがなかった。まちのシンボルとして走っていたボンネットバスがなくなるのは寂しいという市民の声がある、何とか作ってもらえないかと話を頂きました。まさにうちが関わる意味のある、人が介在するストーリーなので、ぜひやろうと引き受けました。

ヴィ・クルーが手掛けた会津バスの「まちなか周遊バス ハイカラさん」

−現場の成熟があってこそ実現できたことですね。

佐藤 まだ早いんじゃないかといってブレーキをかけていたのは自分だったんです。やりながら失敗もずいぶんしましたが、それができるだけのポテンシャルはもう現場にあった。経営者が全て正しいわけではなくて、社員の方が知っていることもあるんですよね。そのおかげで「日本で17番目の自動車メーカーになる」という目標も立ちました。だから社員には本当に感謝しています。

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社ヴィ・クルー

〒989-0215 宮城県白石市斎川字伊具田25-1

TEL:0224-24-3511

2006年10月3日創業。事業内容は車体整備事業(鈑金、塗装、艤装、電装)、リニューアル事業(車両改造、室内改造)、車体製造事業(ボンネットバス等)、自動車部品の開発、販売事業、EVバスの開発及びメンテナンス。2006年にみやぎものづくり大賞、2015年に第7回みやぎ優れMONO、経済産業省おもてなし経営企業受賞。総合力を生かした企画実行力を強みに、人・車・地球を救う自動車メーカーを目指しています。

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