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由利設計工房(後編) 素材×デザインで広がる可能性

自然素材を取り入れた100年残る家造りで欠かすことのできない存在、職人。効率化された現代の家造りにおいて活躍の場が失われ、その数は今も減り続け、将来の見通しも暗い。自らの家造りのためだけでなく、世界的に見ても高度なその技術を後世に残すために、できることは何か。その一つの手段として由利氏は、素材の持つ魅力を一人でも多くの人に知ってもらおうと試行錯誤を繰り返している。素材から聞こえてくる声に耳を傾けながら。

素材×デザインで広がる可能性

—これからもそういう造り方を続けられると思いますが、まだできていないことはありますか。

由利 もっと根本的なところを突き詰めていきたいというのはあります。建築では法律で決められていることからどうしても逃れられないんですけど、実はそれを除外する基準もあります。住宅でいうとコンクリートの基礎の部分というのは、普通はベタ基礎なり何なりで造らないといけないんですが、石場建てといって、石に柱が載ったような昔ながらの造り方が実はいまもできるんですね。それには特殊な計算が必要だったり、構造計算のコストがかかったりするんですけど、法律があるからその造り方をしなきゃいけないという枠をちょっとずつ外していきたい。法律も法律で徐々に、こうすれば適用除外になりますというのが設けられてきているので、既成の概念にとらわれず、こっちの方が自然だろうという造り方をしていきたいです。

素材にこだわった由利さんの建築。さらに根本的なものづくりを追求する

あとはやっぱり職人さんが減っている状況をどうにかしないと。和紙も林業も、大工さんも左官さんもそうですが、これから10年15年でさらに激減していきそうです。ハウスメーカーさんのような造り方でも十分家はできるので、減少しても困らないといえば困らないかもしれないんですけど、日本の木材加工技術というのは世界的に見てもすごく特殊で、高度。その技術を安々と手放してしまうというのは、やっぱりもったいない。だから、僕が設計に関わる建物では、できる限りそういう技術を持った職人さんと一緒にやる。職人の数を増やすまではいかなくても維持したいと思っているんです。でも、できていないですね。どんどん減っていきます。

—それには何が必要ですか。

由利 僕が思っているのは、石なら石、和紙なら和紙にその素材の持つ魅力というのはあるんだけれども、「石はいいですよ」と言っても定着しないですし、普通の生活になかなか入っていかない。だけど、例えばこれ(次の写真左)は石に穴を開けて水を入れて、一輪挿しとして使っているんですが、こういうデザインがプラスされることに可能性を感じています。話はちょっとそれますが、この形(同右)は何に見えますか。

左は秋保石で作った一輪挿し、右は何でしょう

—ヤクルト…ですね。

由利 そうですよね。シルエットだけを見て分かるものって、けっこう少ないと思うんですよ。それもデザインの力ですよね。これはヤクルトの容器にコンクリートを詰めて形にしたんですが、例えばこういったものをペーパーウエートとして販促品に使ってもらうなど、デザインやアイデアで素材の新たな使い方、売り出し方が広がる可能性もあります。いままでにない使い方をするという、その発想が鍵なんだろうなと思うんです。

泉のこども園でも外構の階段に秋保石を使っていて、30センチ角の石をただ置いていっただけの階段なんですが、すごく味があるんですよね。そういう発想やアイデアで可能性が広がることもあるので、そういうことがすごく重要だろうなと思います。ブランディングや広報戦略をしながらやれば、なおいいんでしょうけど、僕はいろいろ緻密に計算して一気に売り出すというよりは口コミで広がった方が好きなので、そういう努力でちょっとずつ、じわじわと広がっていけばいいかなと思います。

これ(次の写真)は僕の知人が手掛けたアンプラグドのスピーカーなんですが、相談を受けて、いつもの仕事と同じように木の生産現場の方につなげたところ、製材所と相談をしながら、形やスマホを入れる溝の寸法を決めていったようです。奇をてらったデザインではなく、試行錯誤を繰り返した中で、この溝の径や深さが導き出されて、その音のための形に仕上がったんですね。

県産木材で作られたアンプラグドスピーカー「woodcent」

—機能美ですね。

まさにそうです。いたずらに決めたデザインではなくて、おのずと導き出されたデザインというのは揺るがないものだなとあらためて思いました。

素材も同様で、このスピーカーには杉やケヤキなど、異なる木を使った展開をしているのですが、聴く音楽によってユーザーが選ぶ木が違うんだそうです。クラシックが好きな人は杉のように柔らかい木の方が音が柔らかく出るからいいとか、要求と素材がちゃんとつながっていて、実は理にかなっている。いまはこういうものも3Dプリンターで生産したり複製したりできますが、それとは違うアプローチだからこそ気付けた可能性で、そういうところにいろいろとヒントがあるんじゃないかなと思うんですよね。

その人はもうすっかり木にハマってしまって、スケートボードも作りました。スケボーは通常、合板で軽くなるように作るんですが、無垢(むく)でやりたいということで、ナラの木を使いました。彼がすごく驚いたのは、買う人が「俺はこの木目がいい」といって選んでいくそうなんです。通常の合板だと塗装して同じものをいくつも作るんですが、無垢だと全てが世界に一つのもの。自然の素材を使っているからこそ、一つ一つ違う顔が現れるんです。

ほかにもさまざまな端材を組み合わせて、それぞれの樹脂の違いで異なる風合いを生かして扉を作ってみたり、キッチンシンクに使うステンレスで文庫サイズの本がぴったり収まる「ブンコロ」というものを作ってみたり、取り壊す家屋の古い窓ガラスをコースターやペンダントに再生してみたり、素材を使っていろいろ試しています。そんなことをやっていても全然お金にはなりませんけどね(笑) でも、「俺を使って何ができるんだ」と常に素材から試されている感じがして、それに何とか応えようとやっています。

古い窓ガラスでつくったコースター。素材を生かして何ができるのか、挑戦は尽きない

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

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由利設計工房

地元の自然素材を使って、地元の職人さんの伝統的な技術による家づくりをお手伝いしています。その地域にある素材と技術でつくられるその地域の気候風土に適した住まいとはどのようなものなのかを模索する日々。

由利収

福島県郡山市生まれ。東北工業大学建築学科を卒業後、仙台市内の設計事務所に就職。2001年に独立し由利設計工房を開設。木造の個人住宅を中心に店舗の内装などの設計・監理を行う。

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