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ライターバトン -32- 「Bar-f-out!(バァフアウト)」

仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。

Bar-f-out!(バァフアウト)

1990年、僕はとにかく情報に飢えていた。日本海側の片田舎に暮らす高校生1年生には、世の中で起きているユースカルチャーの情報がリアルタイムには届いてこなかった。ゆえに、雑誌というメディアを購読する事は、自分にとって情報を得るための唯一の手段だった。

時は過ぎ、大学入学で仙台へと移り住み、Bar-f-out!(バァフアウト)という雑誌に出会う。「Bar-f-out!(バァフアウト)」とは、黒人のスラングで「吐き出す」という意味だ。記事はクラブカルチャーやファッションに連動した話題が多く、ユナイテッド・フューチャー・オーガナイゼーション、モンドグロッソ、KYOTO JAZZ MASSIVE、竹村延和をはじめ、宇川直弘氏のコラムなど、自分にとって刺激的な内容が満載だった。そして何よりも編集者、ライター、デザイナーのスキルの高さと熱量。既存のメディアでは伝わらない情報に溢れていた。それは、ちょっとした若い世代の革命でもあった。この雑誌があったからこそ、90年代初頭にフリーペーパームーブメントが起きた。自分達のコミュニティの面白いと思う事を伝える。そんなシンプルな衝動。雑誌には“シンク・グローバル アクティブ・ローカル”という言葉が掲げられていた。

その言葉を青臭い僕は真に受けた。結果2000年にCOLORという雑誌を創刊する。

ああ、そのまま回顧録で、90年代の仙台にはBLUEblue という小箱のクラブがあった。海外や東京から多数のアーティストがゲストDJとして招かれ、100人しか収容できない様な場所に、時には300人もの来場者があり、得体の知れない熱気にあふれていた。田舎出の自分にとって、クラブの鉄製の扉はとても重く、入るのさえ最初はためらわれたが、気が付けばどっぷりと自分もダンスミュージックの世界の住人となり現在にまで至る。

そう、雑誌の世界でしか見た事がない人が、目の前でDJをしている光景を、大学生の自分は夢の世界の様に見ていた。その方々と後年、様々な形でお仕事をご一緒させて頂く事など、その時は想像すらもしていなかった。人生は小説よりも奇なり。昔に戻れるなら、自分のこの若気の至り全開の行動を、どんな手段を使ってでも止めたい気持ちも半分ぐらいある。21世紀になって、出版や音楽という産業がここまで傾くとは思っていなかった。

1冊の雑誌をテキストの様に読み漁るという体験をしなくなって久しいが、今にして振り返れば、「Bar-f-out!(バァフアウト)」という雑誌から受けた影響で、何かに狂ったり、こったりしながら、仕事を続け2020年まで生きてきこられた事を、この原稿を書きながら実感した次第。頭の中にはBGMで、ムッシュかまやつ氏の「ゴロワーズを吸った事があるかい」が流れている。今日は久しぶりにゴロワーズを買ってきて吸ってみましょうかね。

次回


次回は「と」から始まる言葉で、仙台在住の若手作家、根本 聡一郎さんにバトンを渡します。ますますの飛躍が期待される根本くん。今年は根本くんの小説が、映画化やドラマ化されないかなーと期待しています。仙台ロケがあったらエキストラをやりたい。

-31-「いつまでも残るコトバ」-32-「Bar-f-out!(バァフアウト)」-33-「東北魂」

佐藤大樹

管理栄養士&フードコーディネーターである代表理事の齋藤由布子と共に、 一般社団法人IKIZENの理事/クリエイティブディレクターを務める。6次産業化や農商工連携の専門家の立場から、東北の生産者/企業の販路開拓に繋がるブランディングやフードビジネスを実施中。

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