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ライターバトン -11- 「黒のミラターボ」

仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。

黒のミラターボ

 東西に流れる一級河川に沿って堤防代わりの国道が走っている。そのすぐ脇、国道の下に県営球場があり、向かいには市営プールと運動場があった(運動場と言っても荒れ果てた荒野のような場所で、僕はここで高校の頃にビール掛けをやった)。県営球場と市営プール・運動場の間には南北に国道へと繋がる車線の引かれていないアスファルトの道があって、その道は国道に登る坂になっているのだが、見た目以上に傾斜がきつく、たぶん後から適当につけたのではないか思う。

 僕はその坂を黒のミラターボに乗って登ろうとしていた。中古のマニュアル車で、色々とガタがきていたのはわかっていたが、まさか、坂の途中でクラッチワイヤーが切れるとは想像もしていなかった。僕はこれまでに2度、クラッチワイヤーを切ったことがある。クラッチワイヤーが切れる瞬間というのは夢の中で階段を登っていて足を踏み外す時の感覚に似ていて、バスッと手応えの無いーーというか足応えの無いーー空振りのような感覚に対してまず理由のわからない不安がおそい、その後で何かがおかしいということが分かる。通常はシフトが1速に入っている状態で、①ブレーキを離して②素早くアクセルを踏み込みつつ③半クラッチから徐々に足を離し④アクセルを踏み、スピードが乗って来たら⑤アクセルを離しつつ⑥クラッチを踏み、⑦左手でシフトを切り替え⑧クラッチを戻しつつ⑨アクセルを踏む(2速)、という動作を繰り返す。ところがクラッチワイヤーが切れると、⑥から先が進まない。①〜⑥まではほとんど頭では何も考えず操作をしているのに、クラッチが切れない(クラッチワイヤーが切れた)瞬間に、いつも何も考えずにやっていた操作を突然頭で考えようとする。何かを操作しなければと思う体と、えーとどうするんだっけ? と考える頭との間でタイムラグができて、多分そのタイムラグの時間が不安な時間なのだが、その後でようやく車を止めようと考えて、僕はブレーキを踏んだ。ところで前述の①〜⑨を書くにあたって、椅子に座りながら運転する真似をして順を追って書いていたのだが、多分これで間違いないと思うまで10分くらい掛かってしまった。(今もマニュアル車に乗っているのに。)

 それで車は、見事に坂の真ん中で止まった。そのままブレーキを離しバックのまま戻ろうと思ったが、適当な坂なので道幅が狭く、もし坂を登ろうとしている車が来たらまずいことになる。セルスタート(一度エンジンを切り、1速に入れた状態でエンジンを掛けて動かす)で登ろうにも坂が急で、上に着くまでにバッテリーが上がりそうな雰囲気だ。隣に乗っていたS君は、僕が後ろから押すよというのだが、いくら軽自動車とは言え一人で押せる重さではない。

 警察に電話するか、と車を降りようとした時だった。

「わてに任せとき!」

と、後部座席にいたワダアキコさんがS君を押しのけて車外に躍り出た。助手席のシートを倒し、S君の上をまたぐように大股の一歩で出た様子は、文字通り踊り出るという感じで、僕は少し見とれてしまっていた。ワダアキコさんは、

「S君もきんしゃい!」

と言ってS君を呼び、二人で車の後ろに回り込んだ。

「ほな行くで! 合図で行くで!」

 ワダアキコさんのよく通る声が聞こえる。ガラスを下ろした運転席の窓からではなく、ハッチバックのガラスを突き抜けて、後頭部に直接聞こえてくるようだ。

「せーの! ハッ! ハッ!」

 「ハッ!」が合図だと教えられぬまま、ワダアキコさんは車を押し出した。慌てて僕はブレーキを離す。ルームミラー越しに車を押すワダアキコさんが見える。「ハッ!」と一声出す度に、ワダアキコさんのお尻から黄色いおならのようなものがボンッ! ボンッ! と溢れ出す。いつのまにかワダアキコさんの顔がルームミラーから消えた、と思ったら、ワダアキコさんは一押しする度にどんどん体が大きくなっていて、車が坂の上に着く頃には、なんとワダアキコさんは坂の下に立ち、指だけで車を押していた。

「ほな、元気でな!」

 声のする方を見たけれど、いつしか黄色いおならのような煙がそこら中に漂っていて、もうワダアキコさんは見えなかった。

本文とは関係ありません。
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次回

沼田さんとどうして知り合ったのか、まったく覚えていない。何かのイベントだったか?誰かにご紹介いただいたのか? そもそも名刺交換したのか? 最初にお願いした仕事すら覚えていない薄情者ですが、この原稿を書いている今もお仕事をお願いしていて、たぶん来月もお願いする、とても信頼できる株式会社月刊カフェラテ・沼田佐和子さんが次回登場です。

-10-「特別な広告」 -11-「黒のミラターボ」-12-「望遠鏡を逆からのそく」

ムードセンターまつむら(松村 洋)

昭和50年、群馬県高崎市生まれ。宮城県仙台市在住。おならカルタを作って売っています。いろいろ面白いものを作って売っていければと思っております。

 

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