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ライターバトン -15- 「テープレコーダーとシステム手帳」

仙台を中心に活躍するライターが、リレー形式でおくります。前任ライターのお題をしりとりで受け、テーマを決める…という以外はなんでもアリの、ゆるゆるコラムです。

テープレコーダーとシステム手帳

 先輩から譲り受けたテープレコーダーと、母がプレゼントしてくれたGUCCIのシステム手帳。これが、ライターとして駆け出しの頃の私の仕事道具だった。当時この仕事道具を使う時は、自分の経験の浅さに反比例するような著名人を迎えることも少なくなかった。市内の出版社に勤務していたため、地方プロモーションに訪れたミュージシャンやタレントのインタビュー業務があったのだ。あの時の緊張感のある経験が、現在まで続くインタビューという仕事に向かう心構えや技術の礎を築いてくれた。

 例えば、ある音楽ユニットがブランクを経て新作をリリースする際にインタビューする機会があった。私はテープレコーダーを回し、「なぜこのタイミングでの再始動か、各々のソロ活動で得たものは何か」と質問の口火を切った。すると間髪おかず、ミュージシャンの一人が「やっぱりインタビューはこうじゃなくちゃ…」とつぶやいた。場の雰囲気から、どうやら私の前にインタビューを行った人が、ミュージシャンの活動内容にそぐわぬ質問をしたらしい。私はこの時、たった一度この瞬間のインタビューを成功させるためには、配布された資料のみならず、バイオグラフィーの確認や前作・前々作の視聴、現在の活動状況まで含む、あらゆる角度のリサーチが大前提であることを実感した。

 手痛い失敗をしたと感じたこともある。やはりあるミュージシャンのインタビューの時、新作の詳細から音楽活動の裏側まで、他のインタビューには載っていないような内容を掘り下げて聞くことができ、私は我ながら満足度の高いインタビューができたと思っていた。しかし後日、そのミュージシャンのライヴに足を運び楽屋挨拶をしたところ、相手の表情が曇り「ああ、来たんですか」「でもうれしいです」と、そっけない態度をとられてしまった。あの時のインタビューは私の満足度とは裏腹に、相手には不快な時間だったのだ。何が原因だったのかは今でも分からないから、楽屋挨拶の時の違和感は私の勘違いかもしれない。でも、インタビューを振り返り「相手が本当に伝えたかったことを引き出せたか」を自問自答した時、私が聞きたいことばかりを優先して質問していたのではないか、と感じた。この時、私は決して自己満足に終わるインタビューをしてはならないと深く心に刻んだ。

 多くのことを学んだ出版社を退社して、もう二昔前といってもいいくらいの時が経った。 フリーランスになってから、私の仕事道具はテープレコーダーからICレコーダーに変わったものの、システム手帳は何度かの修繕を経て今も現役だ。コンパクトながら適度な重みがあって書きやすいペンと、音声メモ機能があるスマートフォンも欠かせない仕事道具に加わった。これらを使って、私は年間約数百人の方々にインタビューする仕事を続けてきた。しかしどれだけ経験を積んでも、インタビューは「たった一度この瞬間」であることに変わりはない。相手を深く知るためのリサーチは十分だったか。相手が潜在的/顕在的に伝えたかった本質を捉えられているか。そして、読者が知りたい情報を引き出せているか。繰り返し課せられる命題に頭をフル回転させて、一期一会の時間に臨んでいる。

次回

次に「う」から始まるタイトルでコラムを書いてくれるのは、佐藤有希さん。私が知る同業者の中で人一倍おもろくて、人一倍心優しい素敵な女性です。

-14-「海をわたって」 -15-「テープレコーダーとシステム手帳」-16-「美しい姿勢を求めて」

岡崎裕子

大学卒業後、仙台市内の出版社に入社。退社後はフリーランスのライター/エディターとして活動。仕事道具の中で最大かつ最重要であるパソコンとの相性の悪さをどうにかしたい今日この頃。

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