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クリエイターインタビュー|小森 はるかさん・瀬尾 夏美さん(後編)

仙台と陸前高田を拠点に、ワークショップや対話の場の企画・運営、地域とそこに住む人々にまつわる記録や制作に携わっている、映像作家の小森はるかさん(写真左)と画家・作家の瀬尾夏美さん(写真右)。個人として、ユニット「小森はるか+瀬尾夏美」として、そして一般社団法人NOOKのメンバーとしても活躍しているおふたりに、それぞれの活動を始めるまでの経緯や、活動を通した仙台への気づきについて伺いました。

 

―仙台について、他の地域と比べてどう思いますか。

瀬尾 いいところだと思います。でもひとつ思うのは、アートでもデザインでも、仙台で作品をつくっても外の人に評価してもらう機会がないのが残念ですね。美術の場合、ローカルな題材の作品の中に、他の土地にも通じるような問題が含まれることがあります。それが本当に通じるか確かめるには、実際に他の土地に出て行って作品を展示するしかないんです。仙台でつくって仙台で完結しているうちは、課題が見えないから次のステップへ行けない。デザイナーも、言われた指示のとおりにやるだけじゃなくて、もっと外に出ていく、野心的な人が増えればいいなと思います。つくる人自身の質の問題というよりも、ステップを踏む機会がないことが仙台の文化のクオリティが上がらない理由だと思うので、公募とか学校とかっていう機会を行政にある程度つくってほしいです。

私たちは、たまたま社会的な問題を扱っていたから東京の人たちにもいまだに関心を持ってもらえていて、いまのところ展覧会にも呼んでもらえています。でも、もしそういうネットワークに入っていなかったら、どうやって続けていっていいのかうまく考えられなかったんじゃないかなと思います。

例えば広島だと、広島現代美術館の全国レベルの公募に若手の作家が登竜門的に応募するんですが、それに広島の小さな美術のコミュニティの人たちが影響受けて、留学してみようと思ったりとか、いろいろな動きになっていくんです。震災があったこともあるし、もともと持っている東北の文化とか芸能の面白さもあるので、東北のハブとして仙台がやるべきことはたくさんあると思います。

―他にも仙台についての気づきはありますか。

瀬尾 「みやぎ民話の会」って知っていますか。45年くらいずっと、宮城県中を歩いて回って山奥の集落とかに伝わる民話を聞き取って、記録しているサークルなんですよ。例えば飢餓とか、都市から差別されて苦しかった生活を、なんとか口づたえで伝承して残そうとした民話を記録していく。その資料自体の膨大さに加えて、東北に対する知見もすごくたまっている、深さがあるサークルなんです。何の助成も受けずに自分たちで資金繰りしてやっているんですが、そういうすごいものと出会えるから仙台は面白いですね。

表に出てくるものではないし、出なくていいとも思いますけど、せめて仙台の人たちにはその価値を認めて資料として大切に扱っていく発想を持ってほしいです。

―今後チャレンジしたいことを教えてください。

小森 せんだいメディアテークの「せんだい・アート・ノード・プロジェクト」の一環として、今年度(平成29年度)から「東北アートとリサーチセンター(通称:TRAC)」の運営を、NPO法人エイブル・アート・ジャパンさんと3.11オモイデアーカイブさんとNOOKからなる「やわらかな土から」という団体で行っています。チャレンジとは違うかもしれませんが、こういうオープンな場所をNOOKとして初めて持つなかで、これまでの私たちの仕事では会えなかったいろんな人の知識とかアイデアがたまっていったり、話しづらいことが話せたりするような、外側でも内側でもない、中間的な場所として使っていけたらいいなぁと思いますね。

今回お話を伺った会場の「東北アートとリサーチセンター(通称:TRAC)」

瀬尾 東京みたいに規模の大きいところだと、現代アート、趣味のアート、デザイン……とか区分けがしっかりあるんですけど、仙台だともうちょっと雑多というか、いわゆるジャンル横断的な仕事ができるのがいいところだなと思います。何かの専門の業界をつくってしまうのではなく、個人がそれぞれに持っている専門性を持ち寄って、根底の部分で共通している問題意識があれば一緒に仕事をしましょうっていうネットワークをつくれたら面白いですね。

―クリエイティブ分野で働いている方や、目指している方へのメッセージをお願いします。

瀬尾 クリエイティブの分野でどうやってお金を得ていくかというところを、もっとゆるく考えたらいいんじゃないかと思います。デザイナーだからデザインで食べていこうと思うと、消極的に仕事しなきゃいけなくなったり、自分が大事にしているものを切り売りしなきゃいけなかったりする状況が正直ありますよね。

デザイナーは、課題をマッピングしたり、人の話を聞いたうえでイメージを提案したり、最先端の情報を手に入れるリサーチ能力だったり、いろんな能力を持っているので、例えばグラフィックデザイナーであっても、何かの企画に入るとか、グラフィック以外の仕事ができると思うんですよ。せっかく横断的な要素があるんだったら、デザイナーだからデザインで食おうみたいなプレッシャーを持つよりは、自分の興味に近い仕事を無理せずゆっくり、諦めずに探したらいいと思いますよ。そういう働き方の人たちがゆるくつながったネットワークで仕事ができる気がしていて、NOOKはその形のひとつだと思います。フリーランスで50年食べていくなら、つらくならない方がいいですよね。

小森 クリエイティブな発想や力が、生活している人の中にあるなぁと感じています。デザイナーとは全然違う職業の人にもあったり、それこそ主婦にもあったりとか。そういう人から教えてもらうことが多いなと思いました。特に、東北にはそういう人がたくさんいるような気がするので、クリエイティブ分野の仕事を目指す人たちも、そこから学ぶ機会はあるかなと思いますね。

取材日:平成29年6月19日
聞き手:SC3事務局(仙台市産業振興課)
構成:岡沼 美樹恵

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小森 はるか

1989年静岡県生まれ。映像作家。東京芸術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。映画美学校修了。日常の中に見える人の佇まいや語りを映像で記録している。2012年より、瀬尾夏美と共に岩手県陸前高田市に拠点を移し、暮らしながら記録と制作を続ける。2015年より、仙台市で一般社団法人NOOK(のおく)を立ち上げる。

瀬尾 夏美

1988年東京都生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。土地の人びとのことばと風景の記録を考えながら、絵や文章をつくっている。2012年より、映像作家の小森はるかとともに岩手県陸前高田市に拠点を移す。以後、地元写真館に勤務しながら、まちを歩き、地域の中でワークショップや対話の場を運営。2015年、仙台市で、土地との協同を通した記録活動を行う一般社団法人NOOK(のおく)を立ち上げる。

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