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クリエイターインタビュー後編|芝原弘(演劇ユニット「コマイぬ」主宰)

俳優の役割と使命とは。震災継承と教訓を芸術へ昇華させることで生まれる、ちょうどいい距離感。

仙台在住の俳優 芝原弘さん。俳優として活動をする中で、三陸の郷土芸能を取り入れた舞台作品を手がける制作会社との出会いがあり、2019年に石巻市民とともにミュージカル『シシオドリ 海を渡る』を上演。東日本大震災の記憶を記録するだけではなく、言の葉を物語で綴り、俳優はそれを芸術へと昇華させる。そこから生まれる“ちょうどいい”距離感が、いま人々の心を動かしています。

ー 2019年上演のミュージカル『シシオドリ』はどのようにしてつくられたんですか?

この作品をつくることになったのは「みんなのしるし合同会社」代表の前川十之朗さんとの出会いがあったからです。この会社では、三陸の郷土芸能を取り入れながら震災の教訓継承を目的とした舞台作品を制作しています。代表作は、市役所職員を主人公に東日本大震災での出来事を描く『いのちてんでんこ』。岩手県の「津波てんでんこ(津波があったら、まずは真っ先に逃げろ)」という言葉を題材にした芝居になっており、全国で上演が続いています。

ー 三陸には様々な郷土芸能が残ってますよね。

そうなんです。前川さんは『いのちてんでんこ』の次の作品として、宮城と福島をモチーフにした作品をそれぞれつくりたいという想いがあり、宮城作品としてミュージカル『シシオドリ』をつくることになりました。

前川さんは宮城で創作するにあたり、2016年から『いしのまき演劇祭』が開催され、演劇が根付きはじめた石巻を製作の舞台に選んでくださったんです。配役においても石巻でオーディションを行ない、市民を中心として作品を完成させました。

ー そうなんですね。『シシオドリ』はどんな作品なんですか?

東北各地に『鹿踊り』という郷土芸能があり、この作品は南三陸町に伝わる『鹿踊り』がモデルです。時代背景は、江戸の慶長大津波で被害があった宮城県の漁村を舞台に、震災や飢餓からたくましく生き抜いていく村人たちをミュージカルで仕立て、東日本大震災とも共通する「復興に向けて前向きに進んでいこう」という想いも演出に込められています。この作品は、2019年に石巻市民の方々とつくり、翌2020年には前川さんプロデュースのもと、仙台の俳優たちと本格的なミュージカル作品として改めて製作させていただいたんです。

ミュージカル『シシ こころ静かに遊べ我が連れ』(2020年) 提供:みんなのしるし

ー 芝原さんが主演を務められた作品ですね。

はい。ミュージカル『シシ こころ静かに遊べ我が連れ』という作品です。これは、岩手作品『いのちてんでんこ』とともにレパートリー化して学校公演(巡業)等で全国へ届けたいと考えています。岩手・宮城・福島の各風土や文化を生かした様々な表現方法で、震災の教訓を伝承していきたいです。『シシ』に関しては、2019年2月29日と3月1日の2日間、仙台で上演する予定でしたが、新型コロナウイルスの影響で直前に中止となってしまって…。なので、作品は出来上がっていたんですが、“初日”はまだ開けておりません。

ー 昨日(1月9日)鎌倉で上演されてきたのでは。

鎌倉上演したのは、それらとはまた別の新作なんです。東日本大震災の教訓伝承を目的とした『いのちのかたりつぎ』という作品に今年から関わり、鎌倉で上演することができました。これは、岩手・宮城・福島の三部作の一部を組み入れた構成の作品となっています。

オムニバス公演『いのちのかたりつぎ』(2021年) 提供:みんなのしるし

ー なるほど。内容も少し違うんですか?

この作品の特徴は、5つの短編作品を紡いでいく構成です。阪神淡路大震災を題材にした二人芝居なども含めて、震災後に被災者の証言などから語り継がれてきたものを芝居にして取り入れています。その合間に、コンテンポラリーダンスや歌、岩手や宮城の郷土芸能が織り交ぜられた80分のオムニバス作品です。1月17日に、仙台福祉プラザ(仙台)でも上演する予定です。この作品も、東日本大震災の教訓伝承というところに大きな役割・使命があります。そこにいま、俳優として関わらせていただいていることを誇りに思います。

ー 2019年に仙台へ移住されましたが、俳優として、住民として、それぞれよかったことは?

とてもバランスがいい場所だなと思っています。18年間石巻に住んでいて、そこから20年間東京に住んで。仙台はそのちょうど中間の規模で、足を伸ばせばなんでも手に入るし自然もたくさんある。かといって人間関係が密すぎなくていいです(笑)。

俳優の立場としては、舞台に携わる人たちの顔が見えやすい距離感が仙台にはあり、演劇人として心強いですね。お互いに刺激し頼り合えるのが、いまの私にとってはとてもちょうど良い距離感に感じます。

また、今回の取材場所を提供してくださった宮城野区文化センターをはじめ、演劇へ深い理解を持ってくださっている“場所”があるというのは大きいですね。

ー 宮城野区文化センターでは、面白い企画を実施されましたね。

2020年12月のワンコインシアターという企画に携わらせていただきました。お客様はワンコイン(500円)でお芝居が観られて、携わるパフォーマーとしては素晴らしいホールでお芝居ができるというのは、まず個人や劇団では簡単にできることではないです。これはやはり、この文化センターを運営する公益財団や行政などのお力添えがあって初めて成立することなので、すごく貴重な経験になっています。ワンコインということで、普段お芝居を観られない方々がお芝居に出会える機会が増え、そこから「お芝居って楽しいんだな」「じゃあまた別のお芝居を観に行こうかしら」と言ってもらえるようになると思います。こういうきっかけづくりとなる企画をどんどん提案していただけたら、クリエイター側としてはすごく心強いですし、ありがたいです。ワンコインシアターは今後も継続する予定だということなので、とても期待しています。他の場所でも、気軽で、なおかつクオリティの高いものを観ていただける機会は、どんどんつくっていただけたらと思いますし、こちらからもつくっていきたいですね。

ー 2020年度宮城県芸術選奨新人賞おめでとうございます!周囲の反応や心境の変化はありましたか?

本当にありがたいことに、受賞したことで行政の方とも面識ができて、現行の助成金制度について意見を求めていただけたり、クリエイター側の現状を聞いていただく機会ができました。意見の共有を続けることで、良い関係を築けていけたらと思います。

ー 最後に、これから俳優や演劇に携わりたいと思っている方へメッセージをお願いします。

仙台は何をとっても本当にバランスのいい街です。「細く長く」という言葉が正しいかわからないのですが仕事をしながらでも、家庭を持ってでも、プロの俳優として活躍できる街だと思います。他の地域でプロの俳優を目指すとき、家庭や他の興味のある仕事・活動を犠牲にしなければならないことが多いと思います。しかし、この街でなら「俳優という仕事を一生続けられるんだろうな」と思いながら、私はいま演劇に携わっています。

俳優や演劇に携わる仕事をしたいと思っている方は、焦らずにドシッと腰を据えていれば、必ずチャンスはやってきます。仙台は、チャンスに溢れている街です。「演劇や芸術が好き」という気持ちを常に持ち続けてほしいです。

取材日:令和3年1月10日

取材・構成:太田和美
撮影:小泉俊幸
取材協力:宮城野区文化センター

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芝原弘(しばはら・ひろし)

1982年石巻市生まれ。俳優。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻卒。劇団黒色綺譚カナリア派所属。いしのまき演劇祭実行委員会副代表。東京にて舞台を中心に活動後、2013年からは故郷の石巻市に演劇を届けるため、演劇ユニット「コマイぬ」を旗揚げ。代表作のよみ芝居「あの日からのみちのく怪談」は、上演を重ね今年6年目を迎える。2016年「いしのまき演劇祭」の立ち上げに参加。2019年より拠点を東京から宮城に移す。石巻に於いて「月いちよみ芝居」開催中。2020年、宮城県芸術選奨新人賞を受賞。

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