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クリエイターインタビュー後編|熊谷海斗(ファブリケーター)

CREATOR INTERVIEW クリエイターインタビュー

ベテランの職人さんと最新鋭技術との間を取り持つ、つなぎ役になれたら

手作業でのものづくりに加え、大学の卒業制作をきっかけにCNCルーター*に触れる機会が増えた熊谷さん。大学卒業後に見つけた自身の働き方や価値観、そしてクリエイティブ職を志す若い世代に向けたメッセージをお届けします。

* CNCルーター・・・CNCはComputer Numerical Controlの略で、“CNCルーター”はコンピューター上で作成したデータをもとに、デジタル制御で作動する工作機械のことを指す。木工加工に特化した工作機械”ShopBot”もCNCルーターの中の一種。

ー 大学卒業後の進路も、ものづくり関係だったのでしょうか。

卒業後は、ShopBotのオペレーター職で企業に就職しました。ShopBotに関しては、それがきっかけで使用機会が増えていきました。アルバイト期間も含め1年半ほど勤めて、退職後の約9ヶ月間は制作補助のアルバイトをしたり、南三陸町の工房や関東の企業からも造形物の受注依頼をいただいたりするなど、様々な経験を積んでいた時期でした。しかし2020年の4月から8月まではCNCルーターどころか、ものづくりとはまったく関係のない企業に就職して仕事をしていました。

ブランチ仙台装飾プロジェクト “デコブラ“で制作したオブジェ(2020)

ー それに関しては、何かお考えがあったのですか。

シンプルに安定した職業に就いて食べていかなきゃ、ものづくりは趣味にしよう、と思ったんです。そう思って就職したものの、違和感を感じて数ヶ月で退職しました。企業で働いていた間にも、ものづくりに関する受注や相談がかなり増えてきていたのもありますが。そういう経緯があって2020年の9月から個人事業主として、スタジオ開墾を拠点に活動を再開しました。

木造のアマビエ(2020/cl:南三陸YES工房)

ー そのタイミングで「関東圏に行こう!」とはならなかったのですか。
都内の方が、ものづくりを支援する拠点などが充実しているイメージがあります。

宮城(東北よりも都内の方が、ものづくりをしやすい拠点が多いのは事実ですが、だからといって“上京”という考えには至りませんでした。たとえ道具や場所が豊富に揃っていても、そこに仕事が確実にあるとは限りません。継続的な仕事は、人と人との繋がりや信頼関係から生まれるものだと思っています。学生の頃もひとまずCNC関係の機械を使える様になったし、今後はどうしようかな?という温度感だったので「必ず関東圏に行きたい!」という考えはありませんでしたね。

ー たしかに環境が豊かだとしても、新たな土地でいきなり仕事が発生することは少ないですからね。ちなみに近年だと”デジタルファブリケーション(以下・デジファブ)“を駆使したものづくりを生業にしたい!と望む若者は多いのでしょうか?

どちらかというとデジファブの技術・仕組みでこれを作りたい、というより自分が作りたいものに適したアウトプット方法がデジファブだった、という方が多いのでは、と考えています。

ー なるほど。そもそもデザインはコンセプトなどの組み立てが必要ですし、アウトプットの方法に関しては結果論でしかないということですね。

そういうことです。稀にミーハー的なきっかけから、デジファブに触れる方もいるようですが。そもそもデジファブ自体が、まだものづくりの主流にはなっていないと思います。たとえば金属用3Dプリンターで金属のオブジェクトを作る技法が存在はしているものの、競技用の車等のごく一部のパーツを作るために、一部の工程で取り入れられるような、限られた範囲で使われることが多いです。一般人が普段の生活の中で使用するものが機械自体から直接作られるようになるにはもう少し時間がかかるかと思います。

ー それでは、デジファブ業界・ものづくり業界の次世代の担い手が増えていかないのでは。
たとえば、現在業界を牽引している企業に就職してから独立する人がたくさん出てくれば、広がりが生まれていくのでは?と思ったのですが。
業界は違いますが、グラフィックデザインなんかも憧れの企業やデザイン事務所にしばらく勤めてから、フリーランスになって活躍される方が多いです。

グラフィックデザイン・広告デザインなどと違って、自分の技術・ノウハウやセンスを磨くためにとはならないかと思います。ただし、デジファブ自体が技術のことなので、アーティスト的側面が求められる現場か、生産性や安定した品質が求められる現場かで技術の使われ方や求められることは当然変わってきます。機械自体や使うソフトに関しても。しかし、この人・この企業についていくぞ、という雰囲気の場所よりは個々で生産性を上げるアイディアが共有されるフラットな場所で、技術や考え方の広がりは生まれていくと思います。デジファブの技術は少ない人数でより多くを生み出すことと、工程自体をデータとして残すことで時間や場所に縛られないという良さがあるため、職業としてのものづくり人口自体がこれによって大幅に増えることはないと思います。ただ「作ること」自体のハードル自体は下がってきているのでDIYの範囲では広がるかもしれません。

ー なるほど。”つくる仕事”でも、業界が違うだけでまったく事情や考え方が異なってきますね。
今後、ものづくりの人口は大幅に増えてはいかないはずだ、と仰られましたが、その周りをとりまく技術や道具、ものづくりができる場所の提供などの規模感はどんどん大きくなっていくような気がします。

そうですね。そうなってくると、手仕事・手作業スタートではなく、デジファブからものづくりに入る人が今よりも増えてくるはずです。デジファブからものづくりをスタートしてしまうと、加工する素材の特性や作ろうとしているものに関する基礎知識・構造を十分に理解せず、基本のセオリーに反したものができてしまうケースも少なくないようです。私もいまだに勉強しながら取り組んでいる、といった感じです。
「そういったものも、今の時代では斬新で良いかもしれない」と思う反面、「お客さんとのやりとりの中で困ることはないのだろうか?」と心配にもなります。

デジファブは加工のための機械・CADCAM・・・それぞれの素養が必要です。といっても素材などの基礎的な知識量が豊富で、年配のベテラン大工さんにそういったデジタル関係のノウハウをいきなり覚えてもらうのは難しいことです。

CAD・・・設計や製図を支援するソフトウェアのこと。
CAM・・・加工機の加工手順を組み立てるソフトウェアのこと。

しかし、逆に僕たちのようなデジファブなどの比較的新しい技術の扱いに慣れている若い世代が、ベテランの大工さんたちから基礎知識を学ぶことは可能です。僕の場合は大工さんや木工家、家具職人の方々にもお世話になっているので、素材の知識や基礎的なノウハウなどを教えていただきながら仕事をする事もあります。

ー 若手世代は最新の技術や道具だけにとらわれず、基礎的な知識に向き合うことも重要ですね。熊谷さんご自身の今後の目標はありますか。

まずは、継続的に仕事を得る仕組みを考えていくことです。造形物の受注だけではなく、ものづくりに関するノウハウを他の方に教えていく、ということでも良いですし。具体的には木工の職人さんや大工さんと最新鋭技術との間を取り持つ、つなぐような役割も今後必要だと思うので、そういった役割を担っていけたらというビジョンがあります。

そのビジョンの実現が企業への就職なのか、今のような個人事業主としての仕事になっていくのかは現在見当がついていませんが、この分野のノウハウを活かせる仕組みならば、就職でも個人事業主でも形態にこだわりはありません。

ー ものづくりする人たちの世代間をつなぐ中間支援的な役割、たいへん素晴らしいです。
最後に、クリエイティブ業界を志す若い世代へアドバイスやメッセージなどをお願いします。

理不尽な搾取をされないで欲しい、というのが一番です。近年だと年配の方が「高価なアイテムを買うとか、今の若い世代はそういった派手な消費行動をしない」と仰る人もいます。しかし経験とか体験という保障の出来ない価値と引き換えにインターンシップやワークショップなどを開き、低コストで学生のアイディア・技術を搾取しようとする企業も中には存在しているように思います。真面目に参加している人ほど自分の消費行動に使えるお金が少ない。「学生だからこれくらい支払っておけば良いだろう」という括り自体が経済にストップをかけています。本人が価値を感じる経験であれば自主的にボランティアないし、お金を払ってでも参加すると思いますし。

たとえば、学校や生活に支障が出ない程度にきちんとお給料が出るアルバイトをしてお金を貯め、ちょっとした旅行に行くとか。そういうことがその後のキャリアや目標、やりたいことに繋がることもあると思います。20歳ごろの人生価値はたいへん貴重ですから、「これをやるのが良い」と言われたことをやるだけではなく、”自分が今やりたいことは何かという気持ち“に向き合って、自分のために生きる時間を大切にしてみてください。

取材日:令和21130

取材・構成:昆野 沙耶(恐山 らむね)
撮影:豊田拓弥
取材協力:スタジオ開墾

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熊谷海斗(くまがい・かいと)

1995年秋田県生まれ。ファブリケーター。
2018年東北工業大学ライフデザイン学部クリエイティブデザイン学科プロダクトデザインコース卒業後、CNCルーターオペレーター職の経験を経てフリーランスに。手作業とデジタルファブリケーションの技術を駆使し、木の素材を活かした造形・制作を中心に制作を続けている。

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