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ヴィ・クルー(後編)走れば走るほど地球をきれいにする車で、地域を元気に

佐藤社長の持ち前の企画力と成熟した現場の実行力により、見えてきた「日本で17番目の自動車メーカー」への道。歩みを進める中で、「走れば走るほど地球をきれいにする車を作る」という本来の目的に立ち返り、現在は中国企業とのEVバス開発に力を入れる。今、会社は第2章の10年間。次の第3章では自動車からエネルギーへ、リサイクルの対象を変えようとしている。その構想は、中小企業の連携による地域課題の解決へとつながっていた。

走れば走るほど地球をきれいにする車で、地域を元気に

−「17番目の自動車メーカー」への道のりとして2019年、中国の企業と共同で日本市場向けにEV(電気自動車)のバスを開発されました。

佐藤 ずっと「17番目のメーカーになる」と言い続けていたんですが、はっとする出来事がありました。中国企業の方が工場見学に来られたので、ついでに松島を案内したら、海ではなくて空の写真を撮っていたんですね。話を聞いたら昼間の月が珍しいと。中国は排ガスで昼間に月は見えませんと言われたんです。

それ聞いて、はっとしました。走れば走るほど地球をきれいにする車を作りたいという思いがあり、そのために17番目の自動車メーカーになるつもりだったのが、目的と手段が逆転しちゃっていた。走れば走るほど地球をきれいにするという目的に立ち返ったら、日本よりもむしろ中国やタイやインドなど、今、大気汚染で困っている国で走れるような車を作ることが大事じゃないかと。それで、中国企業とEVバスの共同開発を始めることにしたんです。

進めるにつれ、いろいろな課題も見えてきました。例えばEVを走らせるためには社会インフラが必要だということなど、いろいろな問題があって、うちらだけで進むものではないんだなと気付きました。結果的に、立ち止まってよかったと思います。17番目のメーカーになる夢は捨てていませんが、あのまま突っ走っていたら、大きな落とし穴にはまっていたかもしれません。

中国のメーカーと共同開発したEVバス「アルファバス」(写真提供=ヴィ・クルー)

−これからのビジョンについてもお聞かせください。

佐藤 10年ごとのビジョンをつくっていて、第1章の10年はボディーメーカーになるまでのストーリーでした。それは達成して、第2章の10年が自動車メーカーを目指す今の段階です。そのためにEVのシャシーを作りたいと考えています。そうすれば、トラック架装屋さんで移動販売車にしたり、宅配用のトラックにしたりできます。

作ることはもうできる状態で、あとは資金やリスクヘッジをどうするかだけ。ここから2〜3年、中国とEVバスを進めていく中でいろいろなリスクも乗り越えていくことになるでしょうし、それがノウハウとして残っていけば、実現に近づけると思います。

−次の第3章は。

佐藤 あと4年で移動体を作れる会社になった前提で、第3章の10年はおそらくエネルギーを作る会社になっていくだろうと思います。いわゆるマイクログリッド(分散型電源で電力の地産地消を行う小規模なエネルギーネットワーク)ですね。バスはリチウムイオンバッテリーで走っているので、いずれ大量の電池が廃棄されます。ご存じの通り、太陽光パネルも余剰電力の買い取り期間が満了となり、老朽化も進んでいくでしょう。それらを再生して、グリッド化していくという事業を見据えています。

資源の再生で新しいエネルギーを地域の拠点に置いていくと、移動体の充電ステーションをローコストで地域に作っていけるようになります。それはうちがもともと掲げている資源の循環にもつながっていくので、事業としても一貫性がある。

東京よりも地方の方が再生資源は多いですし、土地も十分にありますから、地方にエネルギー供給基地ができる可能性は高いと見ています。大手の電力会社との契約はいらないくらい供給できるかもしれません。それを一つのモデルケースにして、同じ思いを持つ人たちと共に全国でネットワーク化していきたいなと思っています。

第3章の構想の一端を明かす佐藤社長

−あえて聞きますが、実現にはどんなことが壁になりそうでしょうか。

佐藤 現段階だと太陽光パネルを再生化するには技術的な課題がたくさんあります。そのために、今のうちから大学との産学連携で研究を進めていこうとしています。EVバス事業を通して中国の大企業や先端企業と情報交換もできていますので、それぞれの技術の組み合わせで課題を解決していければと思います。

それを地域に広げるのは地元中小企業の仲間です。メガソーラーであれば大企業が得意ですが、小さなものは手を出しづらいですから。100キロワットだけでもいいですよと、まちの電気屋さんや電気工事をしている人がユニットを設置していく。中小企業の底力の見せ所です。企画力と実行力の話をしましたが、中小企業が連携して、それぞれの分野のプロを巻き込んで事業化していけば、地域課題は解決していけると思っています。

今、私は一般社団法人みのりという法人に参画して、食を通した地方創生に取り組んでいます。車を作るのが仕事の私が企画・販売計画を担当し、洋菓子店のアトリエデリスさんが商品開発・レシピ、養鶏の竹鶏ファームさんが原材料調達・生産計画を担当しています。そうやってそれぞれの強みを生かし、足りない部分を補っていけば、いろんなことが実現できるはずです。

 

みのりが運営する3施設(図中C)の開発が進む「しろいしSunPark」イメージ(写真提供=白石市)

−第3章の後にあるかもしれませんが、最後に事業継承についてのお考えをお聞かせください。

佐藤 もともと家族を経営に入れないと決めているので、社員に継承するつもりです。オートパル時代から二十数年、新卒採用をずっと継続してきて比較的若い社員が多く、その人たちが入社10年15年の選手になって、幹部にもなってきている、生え抜きでそれだけ育ってきている人たちが多いので、バトンを渡していきたいと思っています。

会社には強みが2つ必要だというのが私の考えです。一つは会社の強み、もう一つは経営者の強み。うちの場合は私が企画力を持っていたから今のような形になっていきました。総合力という会社のコアとなる強みに、次の後継者がどんなスパイスを加えるか。人によってその味付けは変わっていいと思うんです。

ただ、今は自動車業界が混沌(こんとん)としているので、きちんと道筋を付けて承継したいとは思っています。今やっているようなことは10年後15年後は通用しないでしょう。もしかしたら承継する時には、さっき言ったエネルギーを創造する会社になっているかもしれないですし、車体を作る会社のままで突き抜けているかもしれない。いずれにしろ、きちんと核になるものをつくり直して渡していきたいですね

工場で働く社員をねぎらう佐藤社長

取材・構成:菊地 正宏
撮影:松橋 隆樹

 

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株式会社ヴィ・クルー

〒989-0215 宮城県白石市斎川字伊具田25-1

TEL:0224-24-3511

2006年10月3日創業。事業内容は車体整備事業(鈑金、塗装、艤装、電装)、リニューアル事業(車両改造、室内改造)、車体製造事業(ボンネットバス等)、自動車部品の開発、販売事業、EVバスの開発及びメンテナンス。2006年にみやぎものづくり大賞、2015年に第7回みやぎ優れMONO、経済産業省おもてなし経営企業受賞。総合力を生かした企画実行力を強みに、人・車・地球を救う自動車メーカーを目指しています。

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